【5月7日 AFP】負傷した子どもや嘆き悲しむ女性の絵、スピーカーからは戦闘機の飛来音──。ウクライナへの侵攻を続けるロシアの首都モスクワにあるロシア現代史博物館(State Central Museum of Contemporary History of Russia)では現在、北大西洋条約機構(NATO)の「犯罪」をテーマにした展覧会が開催されている。

「NATO 残虐の記録」と銘打った展覧会は、モスクワで行われる旧ソ連の対独戦勝記念日の軍事パレードを9日に控え盛況で、先月上旬の開幕以来、1万4000人が来場したという。

 1949年に創設されたNATOの歴史をテーマにした同展では1945年の米国による広島と長崎への原爆投下をはじめ、1999年のNATO軍による旧ユーゴスラビア空爆、イラクとアフガニスタンにおける米国主導の戦争、そして現在のウクライナ紛争を「招いた」とするウクライナとNATOの協力関係も取り上げられている。

 ロシア大統領府(クレムリン、Kremlin)は、米国主導の軍事同盟であるNATOを自国の存亡に関わる脅威と見なしており、ウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領は、米国がロシアを紛争に引き込む道具としてウクライナを利用したと非難している。

 ウクライナ侵攻開始以来、ロシアの独立系メディアは閉鎖、または活動停止に追い込まれる一方、テレビ局は反ウクライナ・反欧米のプロパガンダの製作に力を入れてきた。

 博物館側によれば、展覧会の企画は「数週間足らず」でまとめられたという。

 第2次世界大戦(World War II)における旧ソ連の勝利を祝う黒とオレンジのリボンを胸に着けた来場者の一人、アレクサンドラさんは、いい加減な展示内容だと批判。

 図書館学を教えているというアレクサンドラさんは教え子たちを連れて見学に来たが、今は「時間を無駄にしたことを後悔している」と語り、「NATOが設立された理由やNATOの変遷についてなぜ取り上げられていないのか」と指摘。さらに、ベトナム戦争(Vietnam War)に関するコーナーについて、非難されるべきは「NATOではなく米国だ」と語った。

 博物館に置かれたノートに来場者は自由に感想を書き込める。

「子どもや若者、そして大勢の大人も、西側の世界がいかに腐っているかを自分の目で確かめるべきだ」として、同展を称賛している書き込みもあった。

 ロシア政府のスパイとして違法に活動した罪で米国の刑務所で1年3月服役していたマリア・ブティナ(Maria Butina)下院議員は、主催者は「真実」を伝えてくれていると謝意を表していた。

 一方、ロシア政府の主張を非難する来場者もいる。

「この展覧会は、ソ連流のくだらないプロパガンダ」「政治に白黒はなく、灰色の濃淡しかない」という感想や、「プロパガンダにだまされないで。ウクライナと全世界に平和を。ロシアに自由と知性を!」という書き込みもあった。(c)AFP/Andrea PALASCIANO