【5月5日 AFP】ロシア正教会の最高指導者キリル総主教(Patriarch Kirill)は、ウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領の統治を「奇跡」とたたえるほどの熱烈な信奉者だ。ウクライナ侵攻をめぐり、欧州連合(EU)の制裁対象にも名前が挙がっている。

 75歳の総主教は、プーチン氏の政治機構において重要な柱となっている。保守的な宗教的価値観を推進し、反対派の抗議運動を糾弾することでクレムリン(ロシア大統領府、Kremlin)の権威主義的傾向を強めてきた。

 最近ではウクライナでの軍事作戦を支持し、「国内外の敵」と戦うため結集するよう信者に呼び掛けている。

 2月にはロシアとウクライナの歴史的な「一体性」に反対する「悪の勢力」との戦いについて語り、ローマ・カトリック教会のフランシスコ教皇(Pope Francis)から叱責された。3月にキリル総主教とオンライン会談を行った教皇は、宗教指導者は「政治の言葉ではなく、主イエス(Jesus Christ)の言葉を使わなければならない」と諭した。

 教皇はその後、6月に中東エルサレムで予定していたキリル総主教との会談が白紙撤回されたことを明らかにした。

 キリル総主教のプーチン氏への支持は、2009年にモスクワ総主教に就任して以来、揺るぎない。2012年には、プーチン氏の統治こそソビエト連邦崩壊後の経済的混乱に終止符を打った「神の奇跡」だと評し、「ウラジーミル・ウラジーミロビチよ。あなたは、わが国の歴史のねじれを修正するため自ら大きな役割を果たした」と称賛した。

■テレビ司会者として有名に

 キリル総主教は、プーチン氏や支配エリート層の複数の有力人物と同じく、かつての帝都サンクトペテルブルク(St. Petersburg)の出身だ。

 司祭だった祖父は、旧ソ連の独裁者ヨシフ・スターリン(Joseph Stalin)の統治下で強制労働収容所に送られ、30年間を過ごした。

 1946年生まれのキリル総主教は対照的に、教会でスピード出世を果たした。渉外部長を務めた後、テレビで宗教思想をテーマにした冠番組を持つに至った。1億1000万人超の信者を抱えるロシア正教会の最高指導者に就任した時は、すでに誰もが知る有名人になっていた。

 テレビでは、旧ソ連が国是とした無神論によって活気を失った教会のイメージを一新し、学校や軍隊といった国家機関で教会の存在感を高めるという壮大な計画を提唱。総主教として、その構想を実現させた。

 キリル総主教は、ロシア正教会の価値観を日常生活に根付かせた。2020年に成立した新憲法に神への言及が盛り込まれたのは、その極致だ。この憲法は、プーチン氏に2036年まで権力の座にとどまることを認めている。

 総主教はロシアで高まる保守主義の代表的な擁護者で、同性婚を非難し、同性愛は罪だと宣言している。総主教の下、ロシア正教会は宗教的少数派に対する取り締まりを歓迎している。