【5月3日 AFP】旧ソ連の小国モルドバ東部トランスニストリア(Transnistria)に位置する親ロシア派支配地域「沿ドニエストル・モルドバ共和国」で先週、「政府庁舎」やラジオの電波塔、軍部隊を標的とした爆発が相次ぎ、隣国ウクライナの紛争に巻き込まれるのではないかとの懸念が高まっている。

 ロシア軍中央軍管区のルスタン・ミンネカエフ(Rustam Minnekaev)副司令官は4月22日、モルドバでロシア語話者が抑圧されていると指摘していた。ロシアはウクライナ侵攻の正当化にも、同様の主張を行っている。

 トランスニストリアは黒海(Black Sea)に面するウクライナ南部の港湾都市オデーサ(Odessa)に近く、ミンネカエフ氏は、ウクライナ南部の制圧はトランスニストリアへの回廊確保につながるとも主張していた。

「沿ドニエストル共和国」について以下にまとめる。

■分離独立戦争

 モルドバ東部のドニエストル(Dniester)川の東岸地域トランスニストリアで1990年、多数派のロシア系住民が「沿ドニエストル共和国」の分離独立を宣言した。

 91年12月にロシア軍の支援を受けた「沿ドニエストル共和国」と親欧米のモルドバ政府軍との紛争になり、92年7月に停戦協定が成立した。紛争では数百人が死亡した。

 2006年には住民投票が行われ、97.1%がロシアへの編入を支持したが、国際社会には認められていない。ルーマニアや旧共産圏の東欧諸国に続いて欧州連合(EU)加盟を目指すモルドバにとって打撃となった。

 モルドバのマイア・サンドゥ(Maia Sandu)大統領は、「沿ドニエストル共和国」の分離独立に反対する姿勢を明確にしている。「沿ドニエストル共和国」とモルドバの境界に駐留するロシア軍については、欧州安保協力機構(OSCE)の監視団への交代を求めているが、ロシア側は拒否している。

■キリル文字

「沿ドニエストル共和国」は現在もキリル文字を使用する一方、独自通貨「沿ドニエストル・ルーブル」を発行し、治安部隊も有する。パスポート(旅券)も発給しているが、46万5000人と推定される住民の大半はモルドバ、ロシア、ウクライナの二重または三重国籍となっている。

 モルドバ語(ルーマニア語)話者が多いモルドバの他の地域と違い、「沿ドニエストル共和国」ではロシア語話者が多数派を占めている。

 経済をロシアに支えられ、ガスを無料で供給されている。ロシア兵1500人が駐留しており、事実上、ロシアの「衛星国」となっている。

■密輸業者の拠点

「沿ドニエストル共和国」は以前から、ウクライナ南部の港湾都市オデーサに近いことから、たばこ、酒類などの密輸品の主要な出入り口となっており、密輸業者の拠点と見なされてきた。

 旧ソ連の元警察官2人が設立した「シェリフ(Sheriff)」グループは、スーパーマーケット、ガソリンスタンド、ブランデー蒸留所、チョウザメ養殖場を所有し、「沿ドニエストル共和国」で大きな影響力を持っている。調査報道機関「RISE Moldova」は2015年、「沿ドニエストル共和国」の予算の3分の1がシェリフに入ったと報じた。

 同社は、FCシェリフ・ティラスポリ(FC Sheriff Tiraspol)のオーナーでもある。同クラブはサッカー欧州チャンピオンズリーグ(UEFA Champions League 2021-22)で強豪レアル・マドリード(Real Madrid)を破り、大会史に残る金星を挙げている。

■「鎌とつち」

「沿ドニエストル共和国」の旗には鎌とつちが描かれている。主要都市ティラスポリ(Tiraspol)にはロシアの革命家ウラジーミル・レーニン(Vladimir Lenin)の巨像や胸像が設置されるなど、「沿ドニエストル共和国」は旧ソ連の象徴であふれている。(c)AFP