【5月8日 AFP】ビール製造を始めた当初、男性中心の産業に女性が進出するトレンドに自分たちも乗っていると思っていた──そう話すのは、フランスでビール醸造所を共同で運営している二人の女性だ。二人は、古代のビールは女性にルーツがあるということを事業を通じて初めて知ったと言う。

 フランス南西部の町ラレオル(La Reole)で「Y'a Une Sorciere Dans Ma Biere(私のビールには魔女がいるの意)」という名の小さなビール醸造所を共同で立ち上げたベロ・ベリソン(Vero Verisson)さん(49)とパートナーのベロ・ランセロン(Vero Lanceron)さん(44)。「私たちはビール好きで、自分たちで何かやりたいと思ったのです」と語る。

「みんなの頭の中には、ビールは男性のものというイメージがあります」とのベリソンさんはクスクス笑いながら言う。「当然、私たちはそういう考えに断固反対しています」

 記録に残る最初のビール製造法は、紀元前1800年に粘土片に記されたシュメール時代のビールの女神「ニンカシ(Ninkasi)」をたたえる叙情詩だ。

 ビール造りは、中世に入るまで主に女性の仕事だった。アルコール度数が低かった当時のビールは、家族のための栄養豊富なドリンクだった。

 だが、その頃のビールは長持ちしなかったため、女性たちは余った分を隣近所に売っていた。それによって、ある程度経済的に自立できるようになった多くの女性たちが、自宅で居酒屋を始めるようにもなった。

 男性が取って代わるようになったのは、余暇の楽しみとしてやっていたビール製造が、より多くの利益を生むようになってからだ。

 カトリック教会は、「エールワイフ(ビール酒場の女主人)」は不道徳で不潔な誘惑する女だと決め付けた。修道院でビール造りを始めた修道士らにとって、都合の良い言い分だった。

 新刊書でビールの歴史を解説しているジャーナリストのアネイ・ルコック(Anais LeCoq)氏は「(ビール造りが)本格的にもうかり始めるとすぐに男性たちが関心を持ちました」と言う。「決定的だったのは産業革命で、ビール醸造が工業化されたことです。女性には資本や財産、教育をめぐる権利がなく、当然、醸造業界から姿を消しました」

 だが、今や状況は劇的に変化した。昨今トレンドのクラフトビールや小規模な醸造所の多くは、女性が運営している。

「若い人たちは私たちのビールにとても興味を持ってくれるし、私たちが女性醸造家であることに全く違和感がないようです」とベリソンさんは語った。(c)AFP/Eric RANDOLPH