【5月1日 AFP】戦火のウクライナを逃れて母国に戻ったレバノン人留学生が、困難に直面している。同国も現在、未曽有の経済危機に見舞われており、学生たちは学業継続もままならず、将来に不安を抱えている。

 ロシアによるウクライナ侵攻開始直前の2月22日、首都キーウを後にしたヤセル・ハルブ(Yasser Harb)さん(25)。「ここ(レバノン)にいるくらいなら戦争の方がましだ」と語る。

 レバノンでは現在、電力は不足し、公共サービスは機能不全状態だ。通貨レバノン・ポンドは暴落し、生活費は高騰している。

 ハルブさんやその友人たちがウクライナ国外からリモートで勉強を続けようとしているのに対し、レバノン国内での編入手続きがうまくいかず、学業を中断せざるを得ない学生もいる。

 レバノンの学生にとって、ウクライナの大学の学費は相対的に安く、以前から留学先として人気だった。しかし、レバノン当局は3月末、留学生約1000人がウクライナ国外に逃れたと発表。うち少なくとも340人が編入のためレバノンの教育省に学籍登録した。

 しかし、アッバス・ハラビ(Abbas Halabi)教育相によると、学籍登録した学生のほとんどが学期途中に帰国したため、現時点では国内の私立大学に編入できている学生はいない。

 留学先のウクライナの大学が爆撃され、帰国後の編入手続きに必要な成績証明書すら取り寄せられない学生もいるという。

 レバノン唯一の国立大学、レバノン大学(Lebanese University)のバッサム・バドラン(Bassam Badran)学長は、帰国した学生は次年度まで登録を待つしかないと語った。

 最終学年のハルブさんは帰国後、学位取得を目指してレバノン南部の実家からオンラインで授業を受けている。しかし、一日最長23時間にわたる停電のため、インターネット接続と勉強に支障が出ている。

 ハルブさんは、航空便が再開され次第、ウクライナに戻ることを考えている。

 キーウでは戦火の中でも電力供給は何とか維持され、公共交通機関も運行を継続。市民の生活は着実に正常に戻りつつあるように見える。

「キーウでは、少なくとも基本的なサービスはすべて整っていた」とハルブさんは語る。

 ナタリー・ディーブ(Nathalie Deeb)さん(24)は、ウクライナからドイツに避難して医学の勉強を続けている。

「ドイツにはより多くの機会があり、両親に負担をかけたくなかったからレバノンには戻らなかった」と話す。

 2019年以降、レバノン・ポンドの価値は90%以上、下落している。

 ディーブさんによると、通っていたキーウの大学の1年間の学費は約4400ドル(約57万円)だった。レバノンの私立大学の場合、平均学費はその5倍に上る。

 ディーブさんはレバノンに帰国する代わりに欧州にとどまることができたことは「幸運」だったと語る。「帰国した人は後悔している」 (c)AFP/Jonathan Sawaya