【6月19日 AFPBB News】北京冬季パラリンピック大会のアルペンスキーで、2大会連続の金メダルに輝いた村岡桃佳(Momoka Muraoka)選手(25)。偉業の陰には、チェアスキーを共同開発したトヨタ自動車(Toyota Motor)の技術力があった。

 北京大会で日本選手団の主将も任された村岡選手は、金メダル3個、銀メダル1個を獲得。前回大会と合わせ金メダルを通算4個とし、冬季パラリンピックでは日本勢で単独最多となった。

 村岡選手は昨夏のパラリンピック東京大会にも出場し、陸上の女子100メートル(車いすT54)で6位に入賞。二刀流としても注目を集めた。

「すべてのレースにおいて悔いのない滑りができた。陸上競技への挑戦から、東京パラ・北京パラまでの過程ですごく成長させてもらった」と、晴れやかに語った。

 北京大会では、金メダルを獲得した女子滑降(座位)や大回転(座位)を含む5種目に出場。種目によっては時速100キロを超えるスピードで、アイスバーンの斜面をチェアスキーで滑り降りる。

「足がすくむような難易度の高いコースで、できるなら逃げ出したいと思ってしまうようなコースだった」と、振り返る。

■命を預けるギア

 その難コースで村岡選手を支えたのが、トヨタのエンジニアを含む日本の技術者集団が共同開発したチェアスキー「隼(はやぶさ)Model02」だ。村岡選手は、チェアスキーについて「自分の命を預けるものとして信頼できないといけない」と話す。

「信頼して安心して乗れるからこそ、パフォーマンスが発揮できる。北京パラでは自信を持って乗ることができたので、成績にも大きくつながっていった」

「パラリンピアンの場合は障害があって、健常者が体一つでできることを補うために道具を使わないといけない。できないことをできるようにさせてくれる、そしてより高みを目指させてくれるのがギアの存在」と、信頼を寄せる。

 トヨタは2015年、パラ・アルペンスキーの森井大輝(Taiki Morii)選手の思いに応え、未知の領域だったチェアスキーの開発に着手。2019年からは村岡選手も加わり、議論を重ねて改良してきた。同選手への用具開発・提供は北京大会が初めてだった。

 競技用チェアスキーの開発には複数の企業が参加した。フレームは日進医療器(Nissin Medical Industries)、チェアスキーの膝部分となるサスペンションは日立アステモ(Hitachi Astemo)がそれぞれ担当。トヨタからは約50人が参加。シートと脚を覆うカウルは、トヨタが設計から製作まで手掛けた。

「チェアスキーは選手の体の一部。われわれがハードルを作ってはいけない」と、トヨタの開発メンバー、一柳哲也(Tetsuya Ichiyanagi)氏は力説する。

「選手がこういう滑りをしたいのに、それが用具の制約でできないということにならないように、理想にいかに近づけるかを大事にして設計している」

 チェアスキーの開発には、車両開発の設計技術やコンピューター解析技術、シミュレーション技術が応用されている。シートとカウルはカーボンを採用。レーシングマシンやスポーツ車「レクサスLFA(Lexus LFA)」などに使われているカーボンの成形技術が生かされた。タイムを競う究極の乗り物を開発するという点で、チェアスキーは自動車レースに近いという。