■技術と技能の集団

 プロジェクトリーダーの榎本朋仁(Tomohito Enomoto)氏は、トヨタがこれまでに培ってきた車づくりの技術や精神が競技用チェアスキーの製作に大きく貢献したと確信している。

「それぞれの持ち場の技術を突き詰める。原理・原則に基づいてしっかりと考える。それをしっかりとやるというのは、トヨタらしい部分」と榎本氏。

 プロジェクトメンバーはトヨタの強みを結集した技術と技能の集団だ。チェアスキーのフレームやサスペンションを設計したのは車のシャシー(車台)担当者。チェアの部分は車のシート製造部署の支援を仰いだ。カウルは、燃料電池車(FCV)「ミライ(Mirai)」に搭載されている炭素繊維製の水素タンクや、「レクサスLC(Lexus LC)」に採用する特別使用の軽量リアウィングを担当する技術者が成形した。性能評価については、車の空気抵抗を測定・分析するチームが参加。文字通り「チーム・トヨタ」が村岡選手を支えた。

 刻々と変わる現場で臨機応変に対処し、その場で意思決定をしながら製品を作り上げていくことがトヨタの強みだと、榎本氏は言う。

「ものとして具現化するには、一人ひとりのメカニック、職人の手作業に頼る部分がある。そこなしにはできない。技能と技術のチームワークだ。それぞれの持ち場の強みを生かしながらやってきた」

 榎本氏は、パラアスリート向けの用具開発を進める一方で、より広いユーザーに製品を提供することも見据える。「今は一品ものに近いギアになっているが、市販化などの普及も視野に置き、加工技術を複雑にせず、小型化するという設計を心掛けた」

■ハードルも

 村岡選手は用具開発の現状について、「世界的に見ても開発に携わっている国・企業は増えている。日本もいろいろな企業が用具開発を進めているが、浸透力や競技成績との結び付き方を考えると、まだまだ日本でも伸び代はある」と感じている。

 パラスポーツの用具は特殊で、個人に合わせてカスタマイズするものや、高額なものが多い。障害のある人にとって、雪山に行くまでの手段や、現地での移動やトイレ、チェアスキーを介助・指導できる人などをどう確保するかといった、さまざまなハードルがある。

 村岡選手は小学生の時、体験イベントで陸上とバスケットボール、テニスに取り組み、友人の誘いでチェアスキーの世界を知った。もっと多くの障害者に、チェアスキーを通じてゲレンデの魅力を感じてもらいたいと言う。

「ハードルをなくすのは難しいと思うが、体験イベントがもっと増えたり、いろいろな場所で体験できたりしたらいいと思う」

■二刀流継続へ

 村岡選手は北京から帰国後のジャパンカップを終え、二刀流継続を宣言した。2年後の夏季のパリ大会、4年後の冬季の大会を目指す。

「陸上競技の楽しさを知ってしまったし、スキーでもっと高みを目指していきたいという気持ちもあり、両方とも諦め切れなかった。それぞれの目標に向かって全力で取り組むのみ」

 トヨタの開発チームも、村岡選手の3大会連続の金メダル獲得をサポートするため、北京大会の分析を踏まえ、新たな用具モデルの構想に着手した。

「選手の夢をかなえたい。今年の成績よりも良い成績、良い滑りを目指している。その一部をしっかりと担っていきたい」と榎本氏。「チーム桃佳」は次の挑戦に向け、先月、本格始動した。(c)AFPBB News/Marie SAKONJU/Shingo ITO