【5月15日 AFP】鉄橋に止まった列車の下を縫うように進むヒヒ。眼下の川では、カバがのし歩く。さらにヒョウが1頭、夕食にするアンテロープの匂いを嗅ぎ回っている。

 南アフリカの最も有名な野生動物保護区、クルーガー国立公園(Kruger National Park)には、客を乗せているのに走らない豪華「列車」がある。客車を改装して造られたブティックホテル、「クルーガー・シャラティ(Kruger Shalati)」だ。黄金色の日の出から夜空に天の川が広がるまで、動物王国を見渡せる豪華な展望台となる。

 橋に取り付けられたプラットホームには、小さな円形プールが設置されている。夕刻のそよ風を受けながら、何人かが軽食を楽しんでいる。

 低いうなり声が響くと、鳥のさえずりがやんだ。ウエーターがすぐに「カバですよ」と言った。宿泊客は手すりから身を乗り出し、サビー川(Sabie River)の泥の中にカバの姿を探した。水面から丸い耳がぴょこんとのぞいている。

 結婚30年を記念してヨハネスブルクからやって来たというカレン・レイン(Karen Lane)さん(56)は「かわいらしい」と夫のリッチ(Rich Lane)さんにささやいた。

「めったにできない体験です」と営業担当のシシ・ムダウ(Chichi Mudau)さん(36)。「この場所もサービスも完璧です。夢のようです」

 客のグループは屋根のないサファリトラックに乗り込み、キリンやゾウ、シマウマの群れがいる生息地へと向かう。草を食べ、水浴びを楽しみ、時には争いを始める動物たちを間近に見ることができる。

 夢のような風景に架けられたこの橋は、何十年も放置されていた。1920年代にはクルーガー国立公園に入る唯一のルートだった鉄道は、1979年に最後の機関車が走って以降、使われていなかった。だが、2016年にホテルが橋を落札し、高級ブティックホテルに改装。辺りを一望できる、走らない列車に生まれ変わった。