■事実かフィクションか?

 ヒンズー至上主義者はこの出来事を、ホロコースト(Holocaust、ユダヤ人大虐殺)になぞらえ「ジェノサイド(集団殺害)」や「エクソダス(集団移動)」と呼んでいる。モディ首相が率いるインド人民党(BJP)も長年、この出来事を重要問題として扱ってきた。

 モディ政権は、国内に2億人いるイスラム教徒を疎外し、おとしめていると非難されることも多い。2019年には、カシミールに部分的に認められていた自治権を剥奪し、警備を強化した。

 カシミール出身のパンディットで、1990年代に他所へ逃れたジャーナリスト、サンジャイ・カウ(Sanjay Kaw)氏は、『カシミール・ファイルズ』はカシミールのイスラム教徒に対する迫害を取り扱ったものではないと指摘する。

「映画はエクソダスについてのみ扱っており、国家の失敗に言及しているだけだ。その状況に至った背景は描かれていない」

■BJPの圧力

『カシミール・ファイルズ』の監督で、モディ氏のファンを自認するビベーク・アグニホートリー(Vivek Agnihotri)氏はAFPに対し、「傷つけられた人々に尊厳」を持ってもらいたかったと語った。

 ホロコーストを題材にした映画で、歴史的に正確だと広く評価されている『シンドラーのリスト(Schindler's List)』を引き合いに出し、「誰もスティーヴン・スピルバーグ(Steven Spielberg)監督に、映画に対して暴力的な反応があったのはなぜかと尋ねたりはしてない」と述べた。

「観客が思う通りに反応する権利を与えるべきだ。周りの人を物理的に傷つけない限り、問題ない」

 ドキュメンタリー映画監督サンジャイ・カク(Sanjay Kak)氏は、『カシミール・ファイルズ』はインド社会に存在するイスラム教嫌悪の議論に強く影響を与えているとし、「確かな意図」があると述べた。

 インドの映画業界は、BJPの方針に合致するような作品を制作するよう強い圧力を受けているとの指摘もある。

 2019年に公開され大ヒットとなったアクション大作『URI/サージカル・ストライク(URI: THE SURGICAL STRIKE)』は、2016年に北部の陸軍基地ウリ(Uri)が攻撃を受け、パキスタン全土の武装勢力拠点に報復攻撃をするという内容だが、専門家は事実を切り貼りしていると批判している。

 インドでは軍をテーマにした映画が近年、相次いで公開されている。こうした作品は、主にヒンズー教徒の兵士や警察が主人公で、国内外の敵と戦うという愛国心を鼓舞するものが多い。

 カク氏は「ウリで実際に起こったことが映画に描かれていると思うインド人も多い」と指摘。「カシミール・ファイルズも同じように、映画の内容が実際のカシミールの物語になってしまう」 (c)AFP/Aishwarya Kumar and Anuradha Prasad