【4月17日 AFP】ロシアのウクライナ侵攻を受け、スイスでは冷戦(Cold War)時代に造られた核シェルターへの関心が再び高まっている。

 1960年代以降、スイスの全自治体には住民のための核シェルター建設が義務付けられている。また一定規模以上の戸建てや集合住宅を建てる場合にも、同様に核シェルターを設置しなければならない。スイスの総人口860万人に対し、確保されているスペースは約900万人分。官民合わせて36万5000か所にシェルターがある。

 核シェルターは、チョコレートや銀行、高級時計と並ぶスイスのトレードマークの一つで、これまでは倉庫やワインセラーとして使われてきた。ところが、ロシアがウクライナに侵攻した2月24日以降、本来の役割を見直す動きが起きている。

 ロシアのウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領は侵攻開始から数日後、核抑止力部隊を厳戒態勢に移行するよう命令し、世界に警戒感が広がった。

 さらに、1986年に史上最悪の原発事故を起こしたチョルノービリ(チェルノブイリ、Chernobyl)原発付近をはじめ、ウクライナの原発周辺における激しい戦闘によって、永世中立国のスイスでもウクライナ侵攻の影響を受けるのではないかとの懸念が高まっている。

 ジュネーブの国防・市民防衛当局トップ、ニコラ・スキラッチ(Nicola Squillaci)氏は同市郊外メイラン(Meyrin)で、新築集合住宅の地下シェルターを案内しながら、「衝撃波や空気中の放射性物質から」住民を守るのに役立つとAFPに語った。

 約150人用のシェルターは普段は倉庫になっているが、排せつ物を微生物によって分解・処理するバイオトイレや、組み立て式簡易ベッド、外気ろ過システムなどが備わっている。「非常口とメイン出口にエアロックがあり、カプセルのようになっています」とスキラッチ氏。「建物が崩壊しても、シェルターには影響はありません」

 これまでスイスで核シェルターへの避難命令が実際に出されたことは一度もない。専門家は、シェルター使用の必要性が最も高いのは、国内で原発事故が起きた場合だと指摘している。

 しかし、ウクライナ侵攻を受け、「市民からはシェルターに関する質問が数多く寄せられている」とスキラッチ氏は言う。

 専門家は、実際の核兵器攻撃に対するシェルターの保護レベルは、攻撃の強度と攻撃地点からの距離に大きく左右されると警告している。

 スイス国防省の報道官はAFPに対し、「核シェルターあれば、市民を放射性物質から一時的にはある程度守れる」が、「大規模な核戦争となれば大惨事となり、どの国もその影響を免れることはできないだろう」と述べた。

 映像は3月25、28日撮影。(c)AFP/Agnès PEDRERO