【4月10日 AFP】ウクライナの首都キーウの北西に位置するボロジャンカ(Borodyanka)。ロシア軍の砲撃を受けたアパートで、行方不明者の捜索が続いている。

 アントニーナさん(65)は、アパートの庭だった一角に置かれた椅子に一人座り、捜索活動を見守る。涙の跡が残るその目から、寝不足なのが分かる。3階に息子のユーリーさん(43)が住んでいた。

 捜索活動の進みはあまりにも遅く感じられる。

 アントニーナさんの自宅は攻撃を免れた。だが、息子が住んでいた5階建ての建物は、ロシアの侵攻が始まってから数日後の3月1日夜、砲撃された。建物の真ん中にぽっかりと穴が開いている。

 10棟あった建物は数秒で、コンクリートとねじれた金属の山に変わった。

「夜だったので、中には人がいた」とアントニーナさん。椅子に座り、両手で持ったつえに頭を乗せ、悲しげに捜索活動を見つめる。

 ユーリーさんとは、攻撃があった夜から連絡が取れていない。

「もしかしたら脱出できたのかもしれない。けがをしているのかも。そこ(がれきの下)にいる可能性もある。私には分からない」と言うと涙を流した。

 がれきの山に交じり、靴や本、水鉄砲、クッション、衣服が散乱している。クマ、キリン、カバのぬいぐるみが一列に並んでいた。

 木の枝には、マットレスが引っかかっている。

 70代のリュボフ・ヤレメンコ(Lyubov Yaremenko)さんは、砲撃を受けた時、アパートではなく地下壕(ごう)に避難していた。

「1か月半近く地下壕にいた。その後、砲撃が続いたので通りの反対側の地下壕に駆け込んだ。転んで肋骨(ろっこつ)を痛めてしまった」と語る。

 ヤレメンコさんは、今でもショックを受けている。「この地下壕にたどり着けない幼い子ども連れの家族がいたようだ」

 ロシアの侵攻前は約1万3000人が暮らしていたボロジャンカの大通りは、2キロ以上にわたり破壊され、がれきと化している。

 ウクライナ軍は3月末、ロシア軍がキーウ周辺から撤退するとボロジャンカを奪還した。

 ウォロディミル・ゼレンスキー(Volodymyr Zelensky)大統領はボロジャンカの状況について、後ろ手に縛られた民間人らの遺体が発見されたブチャ(Bucha)よりも「はるかにひどい」としている。

 イリーナ・ベネディクトワ(Iryna Venediktova)検事総長は7日、崩壊したアパート2棟からこれまでに、26人の遺体が見つかったと明らかにした。(c)AFP/Emmanuel PEUCHOT