【4月8日 AFP】ウクライナ南部ヘルソン(Kherson)で暮らしていたエレーナさん(仮名)は、同市を制圧したロシア軍の兵士2人から受けた性的暴行について、時に感情を抑えられない様子を見せながらも、自身の身に起きたことを話したいと語った。

 エレーナさんは、他の住民から兵士の妻だと密告されたことで標的となった。同様の被害を訴える女性は他にもおり、ウクライナではレイプが「戦争の武器」として使われていると人権団体は指摘している。

 ヘルソンから脱出したエレーナさんは、北西に約300キロ離れたザポリージャ(Zaporizhzhia)に到着。同国中部で4人の子どもたちと合流するためにバスを待つ間、AFPの取材に応じた。

 ロシアの侵攻が始まった2月24日、エレーナさんは先に子どもたちを市外へ脱出させた。夫は前線に送られ、自身は安全な地域へ持ち物を送る算段をつけるために残った。しかし車の手配はできず、状況は急激に悪化。同市はロシア軍に制圧された。

■「彼女は兵士の妻だ」

 それは、4月3日の午後のことだった。

 午後3時ごろに買い物に出掛け、店の列にいると、ロシア兵たちが入ってきて、客と話し始めた。会話は聞き取れなかったが、男性客に指をさされて「彼女はバンデラ主義者だ」と言われているのに気付いた。

 バンデラとは、旧ソ連と戦うためにナチス・ドイツ(Nazi)と協力したウクライナ民族主義組織の指導者ステパン・バンデラ(Stepan Bandera)のこと。「バンデラ主義者」という言葉は、ロシア当局が民族主義的な考えを持っているとするウクライナ当局者をさげすむ際にしばしば使われる。

 男性は「こういうやつがいるから、戦争が起きたんだ」と語った。「彼女は兵士の妻だ」

 兵士らが自分の方を見ていることに気付き、すぐに店を出たが、帰宅すると2人の兵士が家に入り込んできた。「助けを呼ぶために電話を取り出す余裕もなく、何もできなかった」

「彼らは無言で私をベッドに押し倒した。ライフルで押さえつけられ、服を脱がされた」。エレーナさんはそう語ると、涙を流した。「彼らはほとんど話さなかった。時折、私のことを『バンデラ主義者』と呼んだり、『お前の番だ』と言い合ったりした」。午前4時になると、ロシア兵たちは当直の時間が来たため帰って行った。

 エレーナさんはこのつらい出来事を、医師やセラピスト、夫にすら打ち明けていない。職業が助産師のため、手当ては自分でしたという。

「目的地に着いたら、必要なものはすべて見つける。私はただ、子どもたちに会いたいだけ」と話すエレーナさん。心身の状態を尋ねられると、再び涙を流し、「気持ち悪い。とても、気持ち悪い。もう生きていたくない」と語った。