【4月10日 AFP】仏パリを拠点とするグラフィティアーティストC215ことクリスチャン・ギュミー(Christian Guemy)氏(48)は、絵に最後の仕上げを施す。ウクライナの首都キーウのバス停に青と黄色のスプレーで描かれた少女の絵が、周りの破壊された建物とコントラストをなす。

 スプレー缶を持ったギュミー氏はAFPに、「支援の印だ」と話した。「厳しい状況の中で、人々が少しでも笑顔になって、人間らしさを取り戻せたら満足だ」

 ギュミー氏は、フランスのストリート・アート界をけん引するアーティストの一人で、英国の覆面アーティスト、バンクシー(Banksy)とコラボレーションをしたこともある。残酷な戦争のさなかにあるウクライナの壁に、平和と無垢(むく)を表す絵を描くためパリからやってきた。

 ロシアのウクライナ侵攻が始まるとすぐ、ギュミー氏はパリの集合住宅の壁一面にウクライナ国旗の色である青と黄色で少女の絵を描いた。

 ウクライナ人から話を聞き、自分に何ができるか数日考え、ウクライナ行きを決めた。危険と知りつつも、行かないという選択肢はないと感じたのだった。

「キーウに来ようと決めていたわけではない。絵が行き先を決めてくれた」

 ロシア軍の爆撃で破壊された地下鉄駅と食品市場の近くにも描いた。こうした被害は、ロシア軍が意図的に市民を標的にしていることを示していると指摘する。

「戦争についてのストリート・アートをやりたいなら、戦争が起きている場所で制作し、被害と現状を伝えるものでなければならない」と語った。

 パリの貧しい地区に生まれたギュミー氏は、過酷な人生を送ってきた。母親は10代で自分を産み、後に自殺した。自分自身もつらい別れを経験し、うつ病を患った。

 破局後、グラフィティ・アートを制作するため仕事を辞め、娘の壁画を描いた。うつに対処するためだったと話す。

 3月2日にミサイル攻撃を受け破壊されたキーウのテレビ塔近くのさびた看板にも絵を描いた。攻撃では5人が死亡した。

 放置された路面電車の側面の絵には、車体と同じあせた赤とクリーム色を使った。

 西部リビウ(Lviv)や中部ジトーミル(Zhytomyr)でも数点絵を描いた。リビウ滞在中には、石油貯蔵施設がミサイル攻撃を受けた。

「子どもに罪はない。子どもが戦争に耐える必要はない。この戦争で数百万の母親と子どもが欧州全体に逃れた」

 ギュミー氏はまもなくフランスに帰国する。だが、必ずキーウに戻ってくるつもりだ。

 自分の作品に対するウクライナ人の反応は素晴らしかったという。その反応に「自分自身も幸せを感じた」と語った。(c)AFP/Danny KEMP