【4月4日 AFP】ロシア軍が撤退したウクライナの首都キーウ郊外ブチャ(Bucha)で3日、犠牲者の追悼が始まった。現実を直視することに耐えられない人も多く、荒廃した街のあちこちに遺体が放置されて、集団埋葬された遺体の身元確認も進んでいない。

 自治体職員のリウバさん(72)は、近所に住む男性を教会の裏手に掘られた穴のそばまで案内した。しかし男性は、そこに横たわる幾つもの遺体の中から行方不明の兄弟を捜す決心がつかずにいる。

 リウバさんによると、穴には57人が埋葬されている。黒い遺体袋が積み上げられ、ぬかるんだ土の下から青白い手や長靴を履いた足など、民間人とみられる遺体の一部が見える。

 男性は後ずさり、倒木の傍らに崩れ落ちた。付き添いの女性が慰めたが、男性は悲嘆に暮れ、穴に近寄ることができない。

「この傷が癒えることは決してない」とリウバさん。「最悪の敵に対してだって、こんなことは望まない」

■「やらなければならないこと」

 教会の近くの廃虚と化した家々が立ち並ぶ道。白いワゴン車に乗った4人の男性が遺体の収容に当たっていた。この細い道だけでも20人の遺体が放置されていた。全員が民間人の服装だ。1人は白い布で後ろ手に縛られ、フードをかぶった頭部を血だまりに横たえていた。

 ビタリー・シュレカ(Vitalii Shreka)さん(27)はナイフで布を切ろうとしたが、うまくいかなかった。布をほどいて、遺体袋に収納する。一人ずつ身分証を確認し、ワゴン車に乗せていく。

 ウラディスラウ・ミンチェンコ(Vladyslav Minchenko)さん(44)は、別の遺体の横に立ち「やらなければならないことだ」と言った。遺体の周りにはジャガイモが散乱し、雨に打たれていた。買い物帰りに犠牲になったのだろう。

■「放置しておけ」

 自治体職員のセルヒー・カプリチニ(Serhii Kaplychnyi)さんによれば、ブチャ当局はロシア軍の占領下で、犠牲者の埋葬を認められず苦慮していた。「ロシア軍の銃弾や砲弾の破片で大勢が亡くなった」

「彼らは、私たちが犠牲者を埋葬するのを許さなかった」「寒い間は放置しておくように言った」とカプリチニさんはAFPに語った。

 最終的にロシア軍は遺体の収容を許可した。「トラクターで穴を掘って、集団埋葬した」

 ある日、頭部を撃たれた10人の遺体を収容したことが忘れられないと話す。「狙撃手が『楽しんで』いたようだ」とカプリチニさん。

 住民もできる限り、亡くなった隣人の遺体を庭や工場の敷地などに埋葬していた。きちんとした葬儀は危険過ぎてできなかった。

「使われなくなった古い下水溝に遺体を集め、ふたをしてあるそうなので、これから収容に行く」とカプリチニさんは話した。(c)AFP/Joe STENSON