【4月1日 AFP】英国のウィリアム王子(Prince William)夫妻のカリブ海(Caribbean Sea)諸国歴訪は、祖母エリザベス女王(Queen Elizabeth II)の在位70年をたたえる記念行事だった。だが、英国君主初の「プラチナジュビリー(Platinum Jubilee)」を英連邦(Commonwealth)諸国と共に祝賀するという計画は、すべて予定通りとはいかなかった。

 ウィリアム王子とキャサリン妃(Catherine, Duchess of Cambridge)は、英王室の富を築いた一因である奴隷貿易について謝罪し、過去の罪を償うよう求める声に直面した。

 バハマ国家賠償委員会(Bahamas National Reparations Committee)は、英王室は奴隷の「血と汗と涙」から利益を得てきたとして賠償を要求。英国に植民地化された地域は何世紀にもわたり「略奪・搾取された」結果、今なお開発途上にあると訴えた。

 ジャマイカではアンドリュー・ホルネス(Andrew Holness)首相がテレビで、同国は独立国として「前進」しているとウィリアム王子に語った。昨年のバルバドスに続きエリザベス女王を元首とする立憲君主制を廃止し、共和制に移行する可能性を示唆したものだ。

 アフリカ系住民の地位向上やアフリカ回帰を唱えるジャマイカの思想運動「ラスタファリ運動(Rastafarianism)」のレゲエ詩人(ダブ・ポエット)、ムタバルーカ(Mutabaruka)さんは現地紙ジャマイカ・オブザーバー(Jamaica Observer)に、「共和制に移行しても食べ物の値段は変わらない。でも、人々の考え方や意識に心理的に影響する」 「私たちが自らをどう見るかという内面的な意義がある」と指摘した。

 首都キングストンの小売店経営者、タメカ・トーマス(Tameka Thomas)さんは「今こそ変わる時だ。エリザベス女王は、ジャマイカではなく英国の女王だ。英国にとどまるべきだ」と率直に語った。

■謝罪しない英王室

 奴隷貿易において英王室が極めて重要な役割を果たしたのは、エリザベス1世(Queen Elizabeth I)が奴隷商人ジョン・ホーキンス(John Hawkins)を後援した16世紀にさかのぼる。

 17世紀にはチャールズ2世(King Charles II)が奴隷貿易の拡大を奨励し、後にジェームズ2世(King James II)として王位に就く弟と共に、私財を投じて奴隷貿易会社「王立アフリカ会社(Royal African Company)」を設立した。

 英国は1807年に大西洋をまたいだ奴隷貿易を禁止。1833年に領内全域で廃止した。

 現代の英王室は過去の奴隷貿易にしばしば言及しており、直近ではバルバドスでチャールズ皇太子(Prince Charles)が「恐ろしい残虐行為」「人類史に残る永遠の汚点」と表現。ジャマイカでは、ウィリアム王子が父の言葉を引用して「深い悲しみ」を表明し、奴隷制は「忌まわしい」慣習で「起きてはならないことだった」と述べた。

 しかし、これまでのところ正式な謝罪はなされていない。

■英王室は「空気を読め」

 英王立歴史学会(Royal Historical Society)の副会長で、奴隷制の歴史と記憶が専門の英ブリストル大学(University of Bristol)のオリベット・オテレ(Olivette Otele)教授は、カリブ海諸国での抗議デモについて「予想外ではなかった」と述べている。

 オテレ教授は、世界的な「Black Lives Matter(黒人の命は大切)」運動や、英国で奴隷貿易に関与した人物の像や記念碑の撤去を求める動きが広がっていること、第2次世界大戦(World War II)後に合法的に英国に移住した「ウィンドラッシュ世代(Windrush Generation)」と呼ばれるカリブ系移民の子孫が不法滞在者として拘束されたり強制退去を迫られたりした問題など、ウィリアム王子夫妻の訪問前にさまざまな論争が起きていた点を指摘。

「謝罪だけでは足りない。謝罪は重要な一歩でしかない」「昨今の人々はもっと多くを求め、変化を期待している。過去と現在が関連していることを知っている」とした上で、英王室と英政府はその二つを結び付けておらず、償いの方法をめぐる協議にも参加していないと続けた。

 米紙ワシントン・ポスト(Washington Post)は、ウィリアム王子夫妻の訪問を「植民地ツアー」と称し、時代遅れの魅力攻勢で「むしろ侮辱的だった」と批判する寄稿を掲載している。

 英王室は「空気を読む必要がある」とオテレ教授は言う。

「状況は変わりつつある。(今回の訪問の)目的がこれからも英女王を元首と仰ぐようカリブ海諸国を引き留めることだったなら、現地にはもっと広範な議論があることを英王室は理解していなかったのではないか」

「対処すべきは不平等、貧困、過去の遺産だ」とオテレ教授は語り、「プラチナジュビリーは英国では素晴らしいことかもしれないが、カリブ海諸国の現状に目を向けずに祝賀を期待するのは問題がある」との見方を示した。(c)AFP/Phil HAZLEWOOD