【3月19日 AFP】ロシアによるウクライナ侵攻に伴い、ロシア人アーティストの活動に暗雲が立ち込めている。

 オペラ界の女王と称されるソプラノ歌手アンナ・ネトレプコ(Anna Netrebko)さんや著名な指揮者ワレリー・ゲルギエフ(Valery Gergiev)氏をはじめ、世界的に活躍してきたロシア人が舞台から締め出されている。だが、果たして文化的ボイコットは有効なのだろうか?

 アパルトヘイト(人種隔離)時代に同様の動きがあった南アフリカのヨハネスブルク大学(University of Johannesburg)で、政治的な変革手段として行われる文化的ボイコットについて研究しているジェーン・ダンカン(Jane Duncan)氏は、文化やスポーツにおける排斥運動は「心理的な影響が大きく、非常に効果を持ち得る」と指摘する。

 同氏はAFPに対し、「ロシアにとって文化や芸術、スポーツは(国家的)アイデンティティーの一部として、ソフトパワーを世界に誇示する手段となっています」と述べた。「私たちがすでに目にしているように、ロシア国内ではウクライナ侵攻に対して多くの人が反対していますが、文化的ボイコットによってそうした声がさらに高まる可能性があります」

 ただし、誰彼なしに文化的ボイコットの対象にすると、反体制側のアーティストまで犠牲になる可能性があるとダンカン氏は警告する。例えば南アフリカでは、「黒人解放運動に参加していたアーティスト」まで排斥される事態が生じた。

「そのため、抑圧され、搾取されている人々の声を芸術や音楽、演劇を通して聴く機会が失われてしまいました」

 数十年前から米ニューヨークに住んでいるウクライナ人美術作家のエミリア・カバコフ(Emilia Kabakov)さん(76)は、アーティストに限らず誰に対しても、単に国籍を理由に罰することがあってはならないと警鐘を鳴らす。

 カバコフさんが生まれた当時、故郷の町ドニプロ(Dnipro)はソ連領だった。外国に住み、働いているロシア人にはそれなりの理由があるかもしれないとカバコフさんは言う。「なぜ彼らがここにいるのか、考えてみた人はいるでしょうか? 自分の国(ロシア)に住めないから(中略)普通の生活、自由な生活を求めているからなのです」