【3月18日 AFP】イルゼ・ティーレ(Ilse Thiele)さん(85)は最近、ドイツ・ベルリンの自宅で花柄のアームチェアに腰掛けながらテレビを見るたび、心が重くなる。ロシアによるウクライナ侵攻のニュースで、第2次世界大戦(World War II)時代の記憶がよみがえるからだ。

「もちろん、あらゆる記憶が押し寄せてくる」。旧東ドイツの郵便局長だったティーレさんは、ベルリンの駅に次々と到着する疲れ果てた難民の映像を見ながら言った。「かわいそうに。特に子どもが」

 1944年末から45年の冬にかけ、寒さと空腹に耐えながら歩いたことを思い出す。母親と共に旧ソ連の侵攻から逃れるため、現在のポーランド南西部ドルヌィシロンスク(Lower Silesia)からドイツ中部テューリンゲン(Thuringia)を目指し、歩いたのだった。

 第2次世界大戦は、今もドイツ国民の記憶と世論に大きな影を落としている。ロシアによるウクライナ侵攻に対する考え方や、どのように対応すべきかという政治議論にも影響している。

 ロシアのウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領は、ウクライナ侵攻はロシアの足元で「ジェノサイド(集団殺害)」を計画している「ネオ・ナチ(Neo-Nazi)」侵略者との戦いであると主張した。

 プーチン氏は先月、第2次世界大戦中にウクライナの民族主義者やヒトラーの共犯者の懲罰部隊がしたように、ウクライナ軍が「無実の人々の殺害」を企てていると指摘した。

 ドイツ市民は、この主張に激しく反発した。

 ミュンヘン連邦軍大学(Bundeswehr University)のヘートビヒ・リヒター(Hedwig Richter)教授(近代史)はAFPに対し、プーチン氏は自らの大義を正当化するため、ナチスは「悪の典型」であるという「圧倒的な国際的合意」を利用しようとしたと指摘する。

「ウクライナ大統領がユダヤ人であることを考えると、まったくばかばかしい」「プーチンが自らの政権を正当化するために、ナチス・ドイツ(Nazi)時代のドイツ人による犯罪の記憶を利用したことに、ドイツ人として非常に怒りを感じる」と述べた。

「われわれは今、歴史の継承がいかに重要かということを目撃している。今やロシアは、スターリン時代の犯罪を忘れ、攻撃的な民族主義を鼓舞している」

 リヒター氏は、ドイツは自国の負の歴史から「平和を切望するだけではなく、危機においては人権を守るため積極的に防衛すること」を学ばざるを得なかったと語った。