■恐怖をあおる戦術

 人権団体は、アサド政権が反体制派を要衝から排除するため、民間人居住区を包囲したり、インフラを爆撃したりするのをロシアが支援してきたと批判している。

 バランシュ氏は、アサド政権のてこ入れに向け、経済の中心地である北部アレッポ(Aleppo)や首都ダマスカス周辺の反体制派支配地域を含む「大都市を制圧することが、ロシアの初期の目標だった」と分析する。

 同氏によると、ロシア軍はウクライナでも首都キエフやハリコフ(Kharkiv)、オデッサ(Odessa)を含む重要都市に向けて進攻し、シリアと同じようなパターンを踏襲したが、それにはウクライナの統治体制の正統性を奪う狙いがあった。

 病院や学校を標的とした無差別爆撃も、民間人の「恐怖をあおる」ためにシリアで用いた戦術と同じだと、同氏はみている。

 ソーシャルメディアに投稿された、戦争の記録を保存する非営利団体「シリアン・アーカイブ(Syrian Archive)」によると、シリアでは2011年以降、ロシア軍やアサド政権によって医療施設少なくとも270か所が攻撃された。人権団体によれば、2016年のアレッポへの攻勢などで、学校や市場も標的となった。

 バランシュ氏は「ロシアは軍事的な標的を爆撃した後、民間人の生活を壊して退避に追い込もうと、医療やエネルギー関連のインフラを次に狙う」と指摘。「市民が去れば、軍の進攻は容易になる」と語った。

 国際人権団体のヒューマン・ライツ・ウオッチ(HRW)とアムネスティ・インターナショナル(Amnesty International)は先月、ロシア軍がハリコフで病院や学校に対してクラスター弾を使用したと非難した。

 今月9日には、南東部の港湾都市マリウポリ(Mariupol)にある小児科・産婦人科病院を空爆したとされる。ウクライナ政府によると、少女を含む3人が死亡した。これを受けて国際的に非難の声が高まり、主要国はロシアが残虐行為を働いていると糾弾した。