【4月24日 AFP】かつてフランス王妃マリー・アントワネット(Marie Antoinette)も身に着けていた手織り物を、昔ながらの糸紡ぎ機や織り機を使って復活させる試みがバングラデシュで進められている。

 薄地の織物モスリンの中でもこの布は、首都ダッカ周辺の特産で「ダッカモスリン」と呼ばれる。とても繊細な糸で非常に薄く織られていて、欧州の社交界では、照明の変化やにわか雨でぬれると、その衣服をまとった人の体の線が透けて見えるとさえ言われていた。

 この生地を復活させるためには、ダッカ近郊にだけ育つ特定のワタが必要だったが、この植物はすでに絶滅してしまったと考えられていた。植物学者らは地球の裏側にまで行って探し回った。

 プロジェクト推進担当の政府高官アユブ・アリ(Ayub Ali)氏は「誰も作り方を知りませんでした」と語る。

「ダッカモスリンで使われる特別細い糸ができるワタの木を、私たちはなくしてしまったのです」

 ダッカモスリンで仕立てられた優雅な衣服は、ムガール(Mughal)帝国時代から長きにわたって愛用され、18世紀末になると欧州の貴族や著名人を魅了した。

 フランスの王妃マリー・アントワネットは、1783年に描かれた肖像画でモスリンの衣装をまとっている。

 だが、18世紀に東インド会社(East India Company)がベンガル(Bengal)地方のデルタ地帯を征服し、英植民地支配への道が敷かれると、モスリン産業は数年のうちに壊滅状態となった。

■失われた植物をめぐる旅

 復活プロジェクトではまず、原材料のワタ探しに5年かかった。探索を率いた植物学者のモンズール・ホサイン(Monzur Hossain)氏は、「(ダッカ)モスリンは『Phuti Carpus』というワタがなければ織ることができません。復活させるためにはこの希少で、絶滅してしまったのかもしれない植物を見つける必要があったのです」と説明する。

 また見本となる当時のダッカモスリンは、国内の博物館にはなかった。そのため、ホサイン氏らのチームはインド、エジプト、英国と探し回った。

 ようやく見つかったのは、英ロンドンのビクトリア&アルバート博物館(Victoria and Albert Museum)だ。ムガール帝国時代、ダッカから東インド会社の商人が輸入した何百枚もの生地があった。

 繊維の遺伝子検査を行ったところ、失われたと思われていたワタが実はすぐそばにあったことが分かった。ダッカ北部の川岸の町、カパシア(Kapasia)ですでに植物学者らが発見していたものだった。

 特定されたワタは現在、実験農場で栽培され、生産規模の拡大に向けて研究が進められている。