私はAFP通信のナイロビ支局でチーフフォトグラファーとして働いています。東アフリカの12カ国、南はモーリシャスから上は、ソマリア、ジブチのあたりまで担当しています。撮影をするだけではなくて、各国にいるフリーランスのジャーナリスト達と連携して行うコーディネート業務も担当しています。

本日のセミナーでは2019年3月に撮ったナイジェリア、 ラゴスで撮影した写真を見ていただきたいと思います。3年前ですが、同じような状況が現在も続いています。

この写真はラゴスの水上スラムです。このスラムは漁村から始まったということで、今も多くの住民が魚を取って暮らしています。ここには30万人ぐらいの人々が生活していると言われていますが、正確な数字は把握出来ていません。

(c)Yasuyoshi CHIBA / AFP

早朝、魚を捕ってきた漁師からお母さんたちが仲買をしています。ここはいわゆる魚市場で、船でみんな集まってきて、その船の上で魚の取引をします。後ろの方に、橋が見えますが、これはラゴスのそのラグーンを横断しているハイウェイです。大都市のすぐ脇にこういう場所があります。

(c)Yasuyoshi CHIBA / AFP

ここには色々な水路がありますが、船の上でみんなが話している情景をよくみます。余計な土地がないので、こうやって船の上で交流するという感じでした。ただ見ていただくと分かりますが、ゴミがたくさん浮いています。もちろん生活排水、トイレも含めてすべて垂れ流しなので汚い状況です。

(c)Yasuyoshi CHIBA / AFP

土地の埋め立て地でサッカーしている子供たちです。こういう埋め立て地が本当に少なくて、あるのは大体学校とか教会とかそういうところです。実際、本当に子供たちが思いきり走って回るような経験っていうのは意外に少ないのかなと思いました。

(c)Yasuyoshi CHIBA / AFP

朝、魚の売り買いの後ぐらいの時間になると、子供を満載した船があちこちで見られました。実はこの後ろに立っているあの船頭さんみたいな方が先生です。先生たちが子供達を一軒一軒拾ってまわる訳です。
というのは、このスラムには公共のサービスが全くない地域です。学校というよりは基本的にプライベートスクールです。その学費は毎日収めるようになっているシステムで一日15円弱払います。それがそのまま、先生たちの給料になるので、毎日必死で子供を一人でも多く集めようとしていました。

(c)Yasuyoshi CHIBA / AFP

真ん中で教えているのが英語の先生です。デリックさん、彼が僕のラゴス取材時のガイドでもあり、船頭さんでもあり通訳でもありました。子供たちは2階の柵もないスペースもない場所で座って授業を受けています。

(c)Yasuyoshi CHIBA / AFP

彼が情熱的に話してくれたことの一つは英語教育の大切さです。このスラムではだいたい四つの地元の言語が話されています。英語はほとんど使われてない状況です。しかし、ナイジェリアの公用語は英語です。ここスラムに暮らしているには問題ないのですが、このスラムから出ようとした時に英語ができないと何も出来ない。外に向かって世界が広がらないという状況です。この先生はあの子供達全員に英語をきちんと学ばせたいという情熱を語ってくれました。

(c)Yasuyoshi CHIBA / AFP

スラムの水自体は本当に汚いのですが、何かこう優雅なのです。女性たちが舟で物を売ったり、食事を売っていたり、レストランもあります。多くの人がこうやってボートで買い物をしているという状況でした。
この写真を撮影している時、女性が私達に向けて何か言ってきたわけです。何を言っているのかわからなかったので通訳に聞いてみました。
通訳によれば、女性は「外国人はアフリカに来て貧しいところを撮影するのでしょ?でもここは全然貧しくなんかないわ。」と。
その通りだと思いました。僕らはどうしても自分たちの目から見て、水上スラムのこのような暮らしが貧しいと思ってしまいます。でもよくよく見ていくと、そこに住んでいる人々は本当に生き生きしています。
僕もこの場所に一日しかいなかったのですが、また行きたいなと思います。この場所に行くとたくさんの人がいて、ほとんどの人が顔見知りです。そこ自分がいること、その中に入っていることの安心感でしょうか。確かに貧しいから、みんなで支え合うしか生きていく術がない情況がありますが、何か安心するような気持ちになることがアフリカのスラムにはあります。

貧困という問題をどう捉えたらいいのか?先ほどの英語の先生が指摘しているように、若い世代の未来に向けての選択肢が無いことが、貧困の大きな要因だと思います。そしてその選択肢を広げるための教育は開発途上国においてはとても重要だと考えます。世界のなかでこういった問題に直面して、その情況から何ができるのか、写真を通して考えてもらえるような撮影を、僕は今後も心がけてゆきたいと思っています。

 
千葉康由 氏
フォトジャーナリスト(AFP通信ナイロビ支局チーフフォトグラファー)

朝日新聞社に写真記者として勤めた後、2007年に退職。フリーフォトグラファーとしてケニアに移住。その後ブラジルAFP支局に勤務しサッカーW杯やリオデジャネイロ五輪などを取材。2017年にケニアに戻り、現在、AFPナイロビ支局のチーフフォトグラファーを務める。2020年「世界報道写真大賞」を受賞。