【3月27日 AFP】5月9日に行われるフィリピン大統領選に立候補した、故マルコス元大統領の長男フェルディナンド・マルコス・ジュニア(Ferdinand Marcos Junior)氏(64)を見るたび、ロレッタ・ロサレス(Loretta Rosales)さん(82)の脳裏には過去の恐怖がよみがえる。

 マルコス元大統領が戒厳令を敷いていた1970年代、独裁体制に異を唱えた。逮捕され、兵士から虐待と性的暴行を受けた。歴史学の教師だったロサレスさんは、歴史が繰り返されることを恐れている。

 政治家に転身したロサレスさんは、マルコス氏の立候補を失格とするよう政府に求めている。「再び国民にあんな目に遭ってほしくない」

 マルコス氏が父親にならい、議会など民主的な機関やメディアを停止させるのではないかと危惧している。

 「ボンボン」の愛称で知られるマルコス氏。大統領選の最有力候補だ。選挙戦では団結を呼び掛け、父親の独裁政権が犯した罪に関する話題から有権者の目をそらそうとする。

 国際人権団体アムネスティ・インターナショナル(Amnesty International)のフィリピン事務所のオーロラ・パロン(Aurora Parong)副理事長によると、マルコス元大統領政権下では、軍が反体制派約7万人を対象に殺害や拷問、性的暴行、手足の切断、恣意(しい)的な拘束を実行した。

 ロサレスさんは当時、唯一の反政府勢力として残っていたフィリピン共産党(CPP)と連携する団体、ヒューマニスト・リーグ(Humanist League)のデモに参加した。

 1976年、ひそかに逮捕され、表示がない勾留施設に入れられた。腕に溶けたろうを落とされたり、水責めにされたり、ベルトで首を絞められたりした。指先や爪先に電気ショックを与えられて震えが止まらなくなったり、衣服を剝ぎ取られたりもした。

 マルコス氏は、父親の政権下で行われた弾圧に関する証言を真正面から受け止めようとしない。今年1月25日のテレビ番組では「(アムネスティが)そうした数字をどう算定したのか知らないし、私はそれを見てもいない」とかわした。

 マルコス氏の広報担当者、ビック・ロドリゲス(Vic Rodriguez)氏は、ロサレスさんの訴えについて「また彼女だ。うそ八百を並べたて、選挙利用している」とAFPに語った。