【3月8日 AFP】ロシアの首都モスクワに住むユリア・シメレビッチ(Yulia Shimelevich)さん(55)は、飼っている猫と犬のための輸入ペットフードが棚から消える前に、買いだめしようと急いでいた。

 フランス語の個別指導をしているシメレビッチさんは「輸入品や衣類といった最近慣れ親しんでいたぜいたくは過去のものになった」と話す。

 ロシアによるウクライナ侵攻を受け、西側諸国の企業は相次いでロシア事業を停止している。モスクワのショッピングセンターに多数出店していた小売り大手のザラ(ZARA)やH&M、イケア(IKEA)などのブランドが一時閉鎖を決めた。

 シメレビッチさんはAFPに対し、2月24日のウクライナ侵攻以来、生徒の大半が授業をキャンセルしたと話した。弾圧的な法律とこれからやってくる不況を避けるため、国外移住を決めた人が多いという。

 今月6日には、息子もロシアを後にした。

「一番つらいのは、切り詰めた生活を送ることではない。息子に会えないことと、全世界に罪悪感を抱いていることだ」

 モスクワ市民の多くは、食料を買うために並ばなければならず、ハイパーインフレーションが起きた、旧ソ連崩壊後の1990年代の苦難の時代を覚えている。

 それと比較すれば、ウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領下での過去20年は、豊かさと繁栄を象徴した時代だった。

 だが、ウクライナへの侵攻を受け科された多数の経済制裁により、ソ連時代よりも厳しい時代が待ち受けていると考える人も多い。

 ジャーナリズムを学ぶアナスタシア・ナウメンコ(Anastasia Naumenko)さん(19)は、アパレルブランド「オイショ(Oysho)」で働いていた。しかし、オイショを運営するスペインのアパレル大手インディテックス(Inditex)がロシア事業の停止を決めたため、職を失った。

 ナウメンコさんは、手に入るうちに化粧品を買いたいと思っている。通貨ルーブルが下落し、「すでに価格が4倍近くになっていると聞いた」と話す。

 ジャーナリストになるのが夢だった。だが、プーチン大統領は4日、ロシア軍に関する「フェイクニュース」を広めた場合、最長15年の懲役刑を科す法案に署名した。

「こんなに検閲をされる状況で、誰がジャーナリストを必要とするというのか」と、ナウメンコさんは、自分の将来に悲観的だ。