【3月7日 AFP】ウクライナの首都キエフ西郊の町ビロホロドカ(Bilogorodka)。さらに西、川の向こうにはロシア軍が展開する。ウクライナ義勇軍の通称「キャスパー」軍曹は悲しみをこらえ、首都につながる「最後の橋」に爆薬を仕掛けた。

 ロシア軍の進撃を遅らせるため、キエフの西側に架かる他の橋はすでに全て爆破された。町に沿って流れる川に架かる「最後の橋」の先には、夏の別荘地として知られる緑に囲まれた村々があるが、今は戦場となっている。

 キャスパー軍曹に橋の爆破命令が下れば、キエフと西方後背地との直接のアクセスは事実上、断たれることになる。元空挺(くうてい)隊員の軍曹は6日、「橋を守るためできる限りのことはする」とAFPに語った。

 だが、戦火は近づきつつあり、バリケードを築く人々の表情は陰鬱(いんうつ)だ。ロシア軍は地上軍に加え、戦闘機を投入し、周辺の町や村を爆撃している。

 避難する住民は増える一方だ。まれに戦闘がやむと、ロシア軍がさらなる攻勢の準備をしているのではないかとの不安が膨らむ。

「命令が下るか、もしくはロシア軍の進撃を確認すれば橋を爆破する」。キャスパー軍曹は前線の上空を飛ぶウクライナ軍の無人偵察機を見上げ、その時が近いかもしれないことを認めた。「ただし、それまでできる限り多くの敵戦車をつぶしてやる」

■狭まるキエフ包囲

 キエフ包囲の輪は日に日に狭まっている。危険度は増し、市街地は閑散としている。ドニエプル川(Dnipro River)東岸でも、ロシア軍が50キロ圏内に迫っている。

 しかし、西側からの道はキエフ中心部と官庁街へ直接つながっている。

 キエフ市民の抵抗の意志は固いが、表情は険しさを増している。ゲリラ戦に備える人もいる。自動車修理工場を営むオレクサンドル・フェドチェンコ(Oleksandr Fedchenko)さん(38)もその一人だ。

 テレビで人気の自動車関連番組の司会を務めたこともあるフェドチェンコさんは、武器が著しく不足している義勇軍を支援するため、自らの工場で武器の修理や改造を始めた。

「うちで働く一般レベルの自動車整備士でも武器を製造できることが分かった。火炎瓶の作り方を知っている従業員もいる。できることは何でもやっている」

 フェドチェンコさんの工場では、従業員全員が義勇軍に志願した。整備士の通称「クロス」さん(28)は、ウクライナ軍が奪ったロシア軍戦車から取り外した大口径機関銃を、訓練を受けていない志願兵でも使える市街戦用の携行武器に改造していた。

 工場はキエフ西端の道路沿いにあり、ロシア軍のミサイル攻撃に対して無防備だ。「いつ攻撃されてもおかしくないと皆分かっている」と、フェドチェンコさんは涙を浮かべて言った。

「きょうが人生最後の日になるかもしれないと、覚悟の上だ。それでも皆やってくる」 (c)AFP/Dmitry ZAKS