【3月13日 AFP】メキシコは環境保護活動家にとって、最も危険な国の一つだ。チョウの保護活動家、オメロ・ゴメス(Homero Gomez)さんは、2年前に殺害されたとみられている。しかし、その精神は今なお生き続けている。

 中西部ミチョアカン(Michoacan)州のチョウ保護区、エルロサリオ(El Rosario)。面積は約2500ヘクタール。モミの木の林に「オオカバマダラ」の大群が飛来する。

 オレンジと黒の羽が特徴で、ミチョアカン州で冬を越すため、毎年カナダから数千キロを移動してくる。

 農業技師だったゴメスさんは、人生の大部分を保護区の保全と監視にささげていた。その活動は国際的にも知られていた。

 しかし、2020年1月、井戸の底から遺体となって発見された。殺害された可能性が高いとみられている。

 数日後、同じくチョウの保護活動家、ラウル・エルナンデス(Raul Hernandez)さんの遺体も州内で見つかった。暴行を受けた痕があった。

 ミチョアカン州では、複数の犯罪集団が活動している。エルロサリオの監視員は、違法伐採業者の脅威にもさらされている。

 国際NGO「グローバル・ウィットネス(Global Witness)」によると、ゴメスさんを含め、2020年にメキシコで殺害された環境保護活動家は30人に上る。環境保護活動家にとって、メキシコはコロンビアに次いで危険な国となっている。

 環境保護活動家が殺害された事件のほぼ3分の1は違法伐採業者によるものだ。半分は先住民族を狙ったものという。同NGOは、犯罪者の最大95%は罰せられていないと指摘している。

 ミチョアカン州の検察は、ゴメスさんの死因は水死としている。頭部に外傷もあった。AFPは検察に取材を申し込んだが、返答はなかった。

 ゴメスさんの妻レベカ・バレンシア(Rebeca Valencia)さんはAFPに「事故じゃない、彼は殺された」と訴えた。捜査は遅々として進まず、真実が隠蔽(いんぺい)されるのではないかと危惧している。

 オレガリオ・サンチェス(Olegario Sanchez)さんはパトロールに同行したAFP記者に対し、ゴメスさんが残したものは今でも「私たちの心の中にある」と話した。

 サンチェスさんによると、監視員は現在260人。「(ゴメスさんと)同じ道をたどり、監視と森林再生活動を続けていく」と語った。

 監視員は10人のグループで行動する。マチェーテ(なた)で武装している監視員もおり、違法伐採業者や腹をすかせた家畜、山火事からモミやマツの木を守っている。昼夜のシフト体制で、時には20キロ歩く。不審な行為を見つければ、当局に通報する。警察も遊歩道の安全に目を光らせている。(c)AFP/Jennifer Gonzalez Covarrubias