■「忘れられない思い出」

 こうした風潮の犠牲になった映画館の一つが「リージェント(Regent)」だ。1920年代に建てられたバロック様式の劇場で、北部の都市メクネス(Meknes)にあった。

 70代の元映写技師、ヤーラ・ヤーラ(Yahla Yahla)氏は、リージェントの解体を残念がる。

「あの映画館には忘れられない思い出があります。あそこで仕事を覚えました」と振り返った。リージェントが閉館し、他に2館で仕事を見つけたが、いずれも2020年までに閉館になった。

「若い連中は映画の価値を分かっていません」

 現在、人口3700万人のモロッコで営業を続ける映画館はわずか27館。改修やフィルムのデジタル化の費用は、国からの助成金頼みだ。

 カサブランカ市内の「ル・リフ(Le Rif)」が建設されたのは1957年。壁には紫色のベルベットが垂れ下がり、赤い布地の座席950席と絶妙なコントラストを生み出している。

「ここはユニークな映画館です。でも、心配でなりません。状況はますます厳しくなっています」とオーナーのハッサン・ベルカディ(Hassan Belkady)氏(63)は明かす。

 コロナ禍で昨年7月まで1年以上、モロッコ全域の映画館は休館していた。

 映画の振興と規制を行うモロッコ映画センター(CCM)から900万モロッコ・ディルハム(約1億1000万円)の資金援助があるものの、業界は危機的な状況にある。

 ベルカディ氏は2020年以降、2館の閉館を余儀なくされた。建物の一部が文化財として指定されているため、解体はできない。

「当局が映画館を保護する努力を一切しないのに、歴史的建造物に指定することに何の意味があるのでしょうか」とベルカディ氏は言う。「力を結集すること、手遅れになる前に行動することが急務です」 (c)AFP/Kaouthar Oudrhiri