【2月27日 AFP】モロッコ最大の都市カサブランカ(Casablanca)でラビ・デラジ(Rabi Derraj)さん(42)は、古ぼけた映画館を力なく見つめていた。ここで長年、警備員として働いていた。もう映画が上映されることはない。入り口をふさぐように近所の市場のマネキン人形が捨てられている。

「どうにもなりません。この映画館は死んだも同然です」とデラジさんは話した。

 庶民が住むデルブ・スルタン(Derb Sultan)地区にある映画館「アルマラキ(Al-Malaki)」の座席数は1000席以上。国王モハメド5世(King Mohammed V)の命で、植民地を支配していたフランス人用の映画館に負けじと1940年代に建設された。アルマラキはアラビア語で「王族」を意味する。

 ハンフリー・ボガート(Humphrey Bogart)とイングリッド・バーグマン(Ingrid Bergman)が共演した1942年のハリウッド(Hollywood)映画『カサブランカ』は、題名にもなったこの街が舞台になっている。

 1940年代にモロッコ人向けの映画館が建てられてからは、銀幕全盛期を迎え、その熱は1990年代前半まで続いた。

「ですが、テレビやビデオテープ、今では配信サービスにすっかりお株を奪われました」と、フランス人の写真家フランソワ・ボーラン(Francois Beaurain)氏は語る。

 アルマラキは2016年に閉館し、今では周辺の市場のごみ捨て場になっている。

 こうした映画館はモロッコの歴史を物語る文化財だとして保存を呼び掛ける人々もいるが、モロッコでは100館前後の映画館が、アルマラキと同じ運命をたどっている。閉館されて何年も放置され、朽ち果てた後、最終的に解体される。

 世界中で歴史のある映画館が閉館の憂き目に遭っているが、モロッコでも、以前は映画館に行っていた人々が自宅で配信サービスを利用するようになり、この傾向は、新型コロナウイルスの感染拡大によって一層強まった。