【2月5日 AFP】シリア北西部イドリブ(Idlib)県アトメ(Atme)に住むマハムード・シェハデ(Mahmoud Shehadeh)さんは、米軍のヘリコプターの飛行音を聞き、嵐が来たのかと勘違いした。3日午前0時30分ごろ、空模様を確認しようと屋外に出ると仰天した。複数のヘリが隣家を囲み、上空からスピーカーで住人に呼び掛けていたのだ。

 アトメには、イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」最高指導者のアブイブラヒム・ハシミ・クラシ(Abu Ibrahim al-Hashimi al-Quraishi)容疑者が潜伏していた。

 シェハデさんはAFPに対し、「頭上を航空機が飛んでいた。その10分後、(1人の女性に)『投降せよ、この家は包囲されている』と大声で呼び掛けていた」と話す。米軍の特殊部隊が急襲作戦を実行し、クラシ容疑者が自爆して死亡した直後のことだ。女性が投降したかは分からないという。

 アトメの住民たちは、武装ヘリの銃撃音を耳にした。銃撃が2時間ほど続いた後、米主導の特殊部隊がクラシ容疑者の家に突入した。

 オリーブの木に囲まれた質素な家に住む隣人が実はISの最高指導者だったと知り、住民たちは衝撃を受けた。

 最重要指名手配犯の一人であるクラシ容疑者は、1階に妻と子ども3人と住み、2階には妹とその娘が住んでいた。

 家主のモハメド・シェイク(Mohamed al-Sheikh)さんも驚いた一人だ。クラシ容疑者をタクシー運転手だと思い込んでいた。

 特殊部隊が突入した後の映像には、2階から黒い煙が立ち上り、屋根の一部が崩れ、壁や床には血が飛び散っている様子が捉えられている。

 ジョー・バイデン(Joe Biden)米大統領はテレビ演説で、クラシ容疑者は作戦中に自爆し、女性と子どもを含む家族を道連れにしたと述べた。

 家主のシェイクさんによると、クラシ容疑者は11か月前からこの家に住んでいて、いつも自分で家賃を支払いに来た。「おかしなところはなかった」という。

 最後に見掛けたのは、シェイクさんが家の近くでオリーブの実を収穫している時だった。クラシ容疑者がコーヒーを持ってきて、座って話をしたという。

 いつも同じズボンにシャツ、ベスト、そしてヘッドスカーフを身に着けていたクラシ容疑者のイメージは「穏やかでおおらかで快活な人」だったという。

 クラシ容疑者は「破壊者」の異名を取り、残虐なことで知られた。2014年にISがイラクで少数民族ヤジディー(Yazidi)の人々を大勢殺害し、奴隷にした際に主要な役割を果たした。

 物腰は落ち着いていて、地元住民に正体を疑う人はいなかった。

 しかし、クラシ容疑者の正体が明らかになった今、シェイクさんは家が破壊されたことに怒りを隠さない。「正体を知っていたら、絶対に家に住まわせなかったのに」と話した。(c)AFP/Abdelaziz Ketaz