【2月4日 AFP】北朝鮮が今週公開した新たなプロパガンダ映像には、金正恩(キム・ジョンウン、Kim Jong un)朝鮮労働党総書記が白馬に乗り、森の中を駆け抜ける姿があった。映像は経済政策における金氏の指導力をアピールする内容だが、国際社会からの制裁にもかかわらず最近繰り返しているミサイル発射については触れていない。

 北朝鮮は先月、1か月当たりでは現政権で過去最多となる7回の兵器実験を行った。その中には2017年以来となる中距離弾道ミサイルの発射も含まれており、金氏が長距離ミサイルや核兵器の実験を再開するのではないかとの懸念が高まっている。

 しかし、政府が今回制作した映像では、新型コロナウイルス禍と国際社会の制裁により孤立が続く中で疲弊した国内経済を立て直そうとする金氏の奮闘ぶりが強調されている。

 米首都ワシントンのシンクタンク、スティムソンセンター(Stimson Center)が運営する北朝鮮分析サイト「38ノース(38 North)」の非常駐特別研究員レイチェル・ミニョン・イ(Rachel Minyoung Lee)氏は「映像の主なテーマは、金氏の人民に対する献身ぶりと勤勉さだ」と語った。

 映像では、金氏が白馬にまたがる姿が冒頭と最後に登場する。白馬は金一族の権威の象徴だが、イ氏は「乗馬のシーンに関してはあまり深読みをするべきではないと思う。最近のミサイル発射や実験計画と結び付けるべきではない」と指摘する。

 米国との協議が停滞し、食料価格高騰や深刻な飢餓が伝えられる中でも、北朝鮮は軍の近代化を目指す金氏の方針を堅持している。映像では、北朝鮮が昨年経験した「史上最悪の苦難」について、具体的な内容に触れることなく言及。金氏が慎重に階段を下りる姿が映し出され、激務のために「体は弱り果ててしまった」とのナレーションが流れている。

 韓国の北韓大学院大学(University of North Korean Studies)の梁茂進(ヤン・ムジン、Yang Moo-jin)教授は、この場面は「生身の人間」であることをアピールする狙いがあると話す。「指導者として人民を深く愛するがゆえに、過労で疲れがちなことを表現しようとしている」

 国営朝鮮中央テレビ(KCTV)が今週公開した他の映像には、金氏が妻の李雪主(リ・ソルジュ、Ri Sol Ju)氏、叔母の金敬姫(キム・ギョンヒ、Kim Kyong Hui)氏と共に劇場で公演を鑑賞する様子も映っている。

 韓国のシンクタンク、世宗研究所(Sejong Institute)北朝鮮研究センター(Center for North Korea Studies)の張成昌(Cheong Seong-Chang)氏は、旧正月前後に公開された一連の映像には、金氏の精力的な面を強調する意図があったとみる。「特に乗馬のシーンは、国内外に向けて健康状態を誇示するために作られたようだ」とし、「新年への強い決意とやる気を伝えている」と分析した。

  映像はKCTVが公開したものの一部。(c)AFP