【1月27日 AFP】フィギュアスケート男子の羽生結弦(Yuzuru Hanyu)ほど、ファンの愛情を一身に受けるアスリートは多くない。ファンは羽生の一挙手一投足を追い、演技を見るためにお金を使い、中には像を彫る人もいる。

 2月の北京冬季五輪で3大会連続の金メダルを目指す羽生を、熱心なファンの大軍団はアイドルとしてあがめる。演技後にはリンクに「くまのプーさん(Winnie the Pooh)」のぬいぐるみのシャワーを降らせ、中には同じファンでも怖くなるほどの熱意で羽生を応援する。それでも、少年のような顔立ちと細身の体をした「ユヅ」への愛情は共通している。

 新潟県で美術教師として働く46歳の松尾ゆみ(Yumi Matsuo)さんは、「力強くて、カリスマ性があるのに、はかない感じ」と羽生の魅力を語る。松尾さんはこれまで、羽生をテーマにした作品を多く制作している。その一つである木彫りの羽生像を作ったときのことを「ほとんどキリスト像とか仏像を作る気持ちに近いです」と振り返った。

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で、海外の一般客は北京五輪を現地で観戦することはできないが、大会が始まれば、ファンは遠い空の下で画面にかじりつくだろう。ファンの中心は日本の中年女性だが、他にも羽生は各国の幅広い層から人気を集めている。

 南アフリカ出身で、現在はドイツに暮らす26歳のミジャン・ファンデル・マーウェ(Mijeanne van der Merwe)さんは、2018年にテレビで平昌冬季五輪を見るまで、羽生も、フィギュアスケートもまったく知らなかった。

 それでもファンデル・マーウェさんは「音楽が鳴り出した瞬間から、心を奪われた。表現力や体の動かし方、プログラムの滑り方に魅了された」と話し、演技中から涙を流していたと続けた。「それ以来、できる限り詳しく彼のことを追うようにしている」という。

 松尾さんも以前はスケートに興味がなかったが、2014年のソチ冬季五輪で優勝した羽生を見てファンになった。羽生のおかげで人生に光と彩りが生まれたという松尾さんは、孫ができたときには自身の作品を見て、羽生のことを知ってもらいたいと考えている。

 ところが、羽生が出場する大会の観戦チケットは入手困難で、松尾さんは自身のヒーローの演技をまだエキシビションでしか見たことがない。チケットの抽選販売は倍率が非常に厳しく、争奪戦なのだという。

 一方でファンデル・マーウェさんは、大会があるときは夜中に起きて観戦し、チャットで世界中のファンと語り合い、お金をかけて日本の雑誌や書籍を取り寄せる。

 ファンデル・マーウェさんは「もちろん彼がとてもかっこいいことぐらい分かっている。でも、たとえ彼が世界一醜くくても構わない」と話し、「彼のアートやスポーツに懸ける思いに引かれた。プログラムの滑り方や、技術的な難しさ、それをいとも簡単そうにこなす滑りにね」と続けた。

 北京五輪で金メダルを獲得し、3連覇を実現すれば、フィギュアの男子シングルではギリス・グラフストローム(Gillis Grafstrom)氏(スウェーデン)以来2人目の快挙となる。しかし今回が羽生にとって最後の五輪になることは濃厚で、引退もそう遠くない可能性がある。

 松尾さんは、羽生のような選手が現れることはもう二度とないと考えており、「見た目も技術も努力も、すべてかみ合っている人というのは出ないと思います」と話した。

「今の同じ時代に生きて、応援できるから本当に幸せです」 (c)AFP/Andrew MCKIRDY