【1月25日 AFP】イタリアの貴族ニコロ・ボンコンパーニ・ルドヴィージ(Nicolo Boncompagni Ludovisi)公の3番目の妻で、最後の妻でもあったリタ・ジェンレット・ボンコンパーニ・ルドヴィージ(Rita Jenrette Boncompagni Ludovisi)夫人(72)には、世界で自分だけに許された、人には言えないような楽しみがある──ルネサンス後期のイタリア美術の巨匠カラバッジョ(Caravaggio)唯一の天井画を眺めながら自宅でヨガをすることだ。

 だが、神々の絵の下で体を伸ばしたり、曲げたりする日々はもうすぐ終わりを迎えるかもしれない。2018年に夫が亡くなり、ローマ中心部にあるこの邸宅は相続争いの末、競売に掛けられている。

 18日に行われた競売では買い手がつかなかったため、夫人は今、イタリア政府が買い上げ、そのまま住まわせてくれないかと思っている。「ボルゲーゼ(Borghesi)卿にボルゲーゼ公園でしたように、私をここにいさせてほしい」

 米テキサス州出身の夫人は、この家で20年ほど暮らしてきた。家族の写真が並べられた部屋に座り、「この邸宅の管理人であるということは特別で、非常な名誉だ」と話す。

 邸宅はもともと、今はなきルドヴィージ邸の敷地内に造られた離れだった。バロック期の画家グエルチーノ(Guercino)による馬車に乗ったあけぼのの女神「アウロラ(Aurora)」のフレスコ画があることから「アウロラ邸(Villa Aurora)」の名が付けられた。

 夫人はアウロラ邸をめぐり、ルドヴィージ公の最初の妻の子どもたちと相続争いになり、邸宅は競売に掛けられることになった。今後どこに住むことになるか見当も付かないと夫人は話す。

 広さ約2800平方メートルのアウロラ邸には4億7100万ユーロ(約607億円)の値が付けられたが、うち3億5000万ユーロ(約451億円)はカラバッジョの絵の価値だ。

 この絵はカラバッジョが残した唯一の壁画で、ローマ神話の神ユピテル(Jupiter)、ネプトゥヌス(Neptune)、プルト(Pluto)の他、中心部には十二宮(星座)のシンボルが描かれている。

 次回の競売は4月7日の予定で、開始価格は2割引き下げ3億7680万ユーロ(約485億円)からとなる。

 アウロラ邸が外国の富豪の手に渡らないよう、国に買い上げてほしいと思うイタリア人も多い。

 署名サイト「change.org」では、買い上げて美術館をつくるよう政府に求める署名活動が行われており、すでに4万人が賛同している。だが、新型コロナウイルスの流行により打撃を受けたこともあり、慢性的な財政難に直面している政府がこの額を工面するのは難しいとみられている。(c)AFP/Gildas LE ROUX