【2月6日 AFP】イスラエルのユダヤ教超正統派社会が、著名人の性的虐待疑惑と、セクハラ被害を告発する「#MeToo(私も)」運動に揺れている。

 敬虔(けいけん)な超正統派ユダヤ教徒(ハレディム)の有力者が、子どもらを対象に性的虐待を繰り返していたとの告発を受け、「ロー・ティシュトク(ヘブライ語で『黙っていない』の意)」という言葉が口にされるようになった。

 昨年12月、著名な児童文学者でラビ(ユダヤ教指導者)のチャイム・ワルダー(Chaim Walder)氏が自殺した。同氏は否定していたが、日刊紙ハーレツ(Haaretz)は、子どもを含む約20人に同氏が性的暴行を加えていたと報じていた。

 ハーレツは昨年3月には、宗教者で組織する救命救急隊Zakaの創立者で、国内で最も栄誉ある賞とされる「イスラエル賞(Israel Prize)」を受賞したイェフダ・メシ・ザハブ(Yehuda Meshi-Zahav)氏による少年や少女、成人女性への性的暴行疑惑を報じた。

 メシ・ザハブ氏は「でっち上げだ」と否定したが、4月に自殺を図った。その直後にも、同氏の新たな性犯罪疑惑がテレビで報じられた。

 ハレディム社会における性的虐待被害者の支援団体「ロー・ティシュトク」の創設者、アビゲイル・ハイルブロン(Avigayil Heilbronn)さん(33)は、ワルダー氏のような著名人をめぐる疑惑は「大きな衝撃」だとAFPに話した。

■1か月に相談500件

 イスラエルの人口930万人のうち、超正統派ユダヤ教徒は約12%を占める。人種はさまざまだが、戒律に厳格に従って生活しており、一般社会との間で緊張が生じることも多い。

 ユダヤ教社会の子どもや女性を支援する、エルサレム(Jerusalem)に拠点を置く「タヘル危機管理センター(Tahel Crisis Center)」のボランティア、ジョジアンヌ・パリス(Josiane Paris)さんは、被害者は沈黙を守ることが多いと、AFPに語った。「学校やシナゴーグ(ユダヤ教の会堂)で、または隣人から何か言われることを恐れている」

 同センターは30年前、ドメスティックバイオレンス(DV)や性的虐待、レイプの被害者を支援するためにホットラインを開設した。当初、電話はほとんど鳴らなかった。それが、「今では1か月に約500件の相談がある」とパリスさん。MeToo運動がイスラエル社会にも影響を及ぼしていることを示すものだ。

 同じくボランティアのミリアム・メルツバッハ(Myriam Merzbach)さんは、電話をかけてくる女性の中には「一言も発しない」人もいると話す。「苦しんでいるのが分かる。怒りを口にする人、泣き出す人もいる。私たちの仕事は、電話をかけてきた人を支え、励まし、解決策を見つけようとすることです」

■道徳の破綻

 イスラエル最高位のラビ、ダビド・ラウ(David Lau)師は、ワルダー氏の死後、弔問したことで厳しい批判にさらされた。英字紙エルサレム・ポスト(Jerusalem Post)のヤコブ・カッツ(Yaakov Katz)編集長は、「道徳の破綻」だとして、ラウ師の解任を呼び掛けた。

 シンクタンク「イスラエル民主主義研究所(Israel Democracy Institute)」のハレディム専門家で、公共放送KANのジャーナリスト、ヤイル・エッティンガー(Yair Ettinger)氏は、宗教指導者は「現実から目を背けている」と、AFPに語った。

 ただ、名誉を失う著名人が相次いだことで、「問題認識の芽生え」がもたらされたとも指摘する。「無垢(むく)な時代は終わったのだ」 (c)AFP/Alexandra Vardi、Michael Blum