【12月27日 AFP】米国では今年、都市の大小を問わず殺人件数が過去最多を更新した。昨年、新型コロナウイルス流行の真っただ中で生まれた悪循環に、当局の対応は追いついていない。

 AFPが取材した専門家は、複数の要因が重なった結果だと指摘。コロナ禍とそれに伴う精神的な負担、経済が回復する中で取り残されるマイノリティー(社会的少数派)の存在、社会に銃器があふれている点などを挙げた。

 人口150万人のペンシルベニア州フィラデルフィア(Philadelphia)では今年、少なくとも535人が殺害された。過去最多だった1990年の記録を更新し、二大都市のニューヨーク、ロサンゼルスをも上回った。

 フィラデルフィアでアンガーマネジメント(怒りの制御)講習と殺人被害者遺族への支援を行っている非営利組織「マザーズ・イン・チャージ(Mothers in Charge)」は、コロナ禍で何か月間も活動の縮小を余儀なくされた。ドロシー・ジョンソンスペイト(Dorothy Johnson-Speight)代表は、支援が途切れれば「怒りの感情は強まる」と話す。

「相談場所がなかったり、対処方法が分からなかったり、支援を受けられなかったりすると、事態は悪化しかねない」

 殺人件数は、大・中規模の都市で大幅に増加している。首都ワシントンでは今年少なくとも211人が殺害され、ニューメキシコ州アルバカーキ(Albuquerque)でも100人が犠牲となった。オレゴン州ポートランド(Portland)は少なくとも70人、バージニア州リッチモンド(Richmond)は80人で、いずれも過去最多だ。

■「命への敬意がない」

 フロリダガルフコースト大学(Florida Gulf Coast University)で犯罪学を教える元警官のデービッド・トーマス(David Thomas)氏は、「簡潔に言えば、この国は正気を失っている」と述べた。

「人々はただ怒っている。何に対しても腹を立てている。いら立ちが募った末に、耐性が限界を迎えてしまうのだろう」

 アフリカ系米国人のトーマス氏によると、若者は不満を抱くとかっとなって相手に怒りをぶつけ、フェイスブック(Facebook)上でやり合った揚げ句に発砲事件に発展することが多く、その傾向は特に有色人種によく見られる。「命に対する敬意はなく、価値を見いだしている様子もない」

 マザーズ・イン・チャージのジョンソンスペイト氏は、暗く、暴力的なテーマが特徴のヒップホップ音楽であるドリルミュージックやドリルラップの影響もあると非難する。

 一方、中央情報局(CIA)の元分析官ジェフ・アッシャー(Jeff Asher)氏ら犯罪分析専門家の多くは、コロナ禍で「銃の販売数が大幅に増加した」ことが殺人件数急増の最大の要因だとみている。

 小火器・弾薬市場の調査会社スモール・アームズ・アナリティクス・アンド・フォーキャスティング(Small Arms Analytics & Forecasting)によれば、2020年の銃器販売数は約2300万丁で過去最多だった。今年も2000万丁に達すると同社は予測している。

「誰でも銃を持っている」と、シカゴで反暴力運動に長年携わるマイケル・フレガー(Michael Pfleger)神父は嘆く。「銃は今や、多くの人にとって自衛と攻撃のため最初に選択する手段となっている。街行く人は『みんな持っているから自分も持たなくてはならない』と言うだろう」

 一方、アッシャー氏は「警察不信の高まり」も影響していると指摘する。特に、2020年5月に黒人男性ジョージ・フロイド(George Floyd)さんが白人警官から暴行を受けて死亡した事件以降、警察への不信感から「自力で何とかしよう」とする考えが強まっていると語った。(c)AFP/Cyril JULIEN