■「新たな意識」

 自然史博物館の解剖学資料コレクションは一般人が見学可能なものとしては世界最大だが、展示されているのはごく一部だ。

 10代の子どもたちを引率し来館した生物学教師のクリスティアン・ベハフィー(Christian Behavy)さんは「以前の展示も見たことがあるが、今の方が周到に準備されている。全ての展示物に説明書きがあり、情報量がはるかに多い」と話した。

 欧州ではエジプトのミイラの展示が始まった16世紀末から、遺体が展示資料として扱われてきた。

 フランスの国立科学研究センター(CNRS)研究員で、文化財に関する財産法の専門家マリー・コルニュ(Marie Cornu)氏によると、2000年代初めには遺体展示に対する「新たな意識」が広がってきた。

 19世紀に欧州中を見せ物として連れ回されたコイサン(Khoisan)人女性サーキ・バートマン(Saartjie Baartman)の遺骨などの返還を、南アフリカが要求したことがきっかけだった。

 バートマンが亡くなると、遺体は解剖された。頭骨などの骨や性器は、仏パリの人類博物館(Museum of Mankind)に1974年まで展示された。

 2005年前後にはまた、プラスティネーションと呼ばれる保存処理を施された遺体の展示が世界的に人気を博し、議論が巻き起こった。主催者が適切な同意や遺体の来歴を示せなかったとして、一部都市では展示が禁じられた。

■倫理観の変化

 遺体の展示をめぐる議論を促進するため、国際博物館会議(International Council of Museums)は、遺体の収集は「安全に保管し、尊厳を持って管理できる場合に限る」とする倫理綱領をまとめた。収集に際しては、死者の出身地の共同体の「利益と信仰」に細心の注意を払うこととしている。

 パリのソルボンヌ大学(Sorbonne University)に保管されている医学標本の管理責任者、エロイーズ・ケテル(Eloise Quetel)氏も標本の展示をめぐる倫理的問題に直面し、「従来通りの展示はできない」と考えたと話す。

「資料がなぜ収集され、保管されたのか」ということを来館者に伝えなければならないと指摘する。

 ウィーンでの展示に関しては、他の欧州諸国での展示に比べ、植民地主義にまつわる難問題をそれほど伴ってはいない。しかし、展示責任者のフォーラント氏は、違法に収集されたものではないということとともに、「資料収集の文脈を理解すること」が重要だと語った。(c)AFP/Blaise GAUQUELIN