【1月1日 AFP】サッカーカンピオナート・ブラジレイロ(ブラジル全国選手権)の新王者に輝いたアトレチコ・ミネイロ(Clube Atletico Mineiro)には一人の英雄がいる。スタジアムでは体を緑色にペイントして応援するスタイルが大人気で、多くのファンが彼の名を歌う。現実世界の「超人ハルク(The Hulk)」ことフッキ(Hulk)だ。

 下馬評を覆し、2試合を残して50年ぶりのリーグ優勝を決めるという映画のようなシーズンを送った今季のアトレチコにおいて、フッキはキープレーヤーだった。

 マーベル・コミック(Marvel Comics)に登場する筋骨隆々としたスーパーヒーロー「ハルク(ポルトガル語読みでフッキ)」の名を登録名にしている35歳のフッキは昨年1月、中国スーパーリーグ(1部)の上海上港(Shanghai SIPG)から母国に戻ってきた。

 アトレチコ・ミネイロは、アジアと欧州で15年にわたりしたプレーしたフッキがまだ超人的な力を秘めていることに賭けた。

 この移籍は功を奏し、フッキはチーム総得点の約3分の1に当たる19ゴールを決めてリーグ得点王に輝いた。

 アトレチコ・ミネイロの放送ブースでDJを務めるマウリシオ・マオリ(Mauricio Maoli)氏(45)は、「彼が来てからまだ日は浅いが、すでに最も愛されているアイドルの一人。選手権(リーグ戦)で優勝できた最大の要因は彼の存在」と語った。

■緑色の叫び声

 ベロオリゾンテ(Belo Horizonte)でのフッキフィーバーに、大きな貢献を果たしたのがマオリ氏だ。

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によりファンの入場が禁止され、試合中のスタジアムに迫力あるサウンドを流すべくクラブに採用されたマオリ氏は、新たに加入したフッキのチャントが必要だと考えた。

 そこでマオリ氏が見つけたのは、フッキの2得点でポルトガル1部リーグのFCポルト(FC Porto)がスポルティング・リスボン(Sporting Lisbon)に勝利した2012年の試合音源だった。

 その中ではポルトのスタジアムDJが「超人…」と呼びかけると、ファンは耳をつんざくような声量で「フッキ!」と応えていた。

 この音源をよりブラジル風にリミックスしたマオリ氏は、この内容を「フッキ! フッキ! フッキ!」というスタイルに変更。8月に観客のスタジアム入場が許可されると、ファンはすぐさま口ずさんだ。

 マオリ氏は誇らしげに「それは戦士の雄たけびに似た、一種の熱に変わった」と語った。

■ママ、パパ、フッキ

 ジバニウド・ビエイラ・ジ・ソウザ(Givanildo Vieira de Souza)という本名であるフッキの出身は、北東部パライバ(Paraiba)州カンピナグランデ(Campina Grande)で、ベロオリゾンテからは2000キロ以上も離れている。

 しかしフッキは、第二の故郷を自分のものにした。

 本拠地周辺の売店では、アトレチコ・ミネイロのユニホームを着た小さなハルクの人形が一つ70レアル(約1400円)で売られており、スタジアムにはハルクをまねて体を緑色にペイントしたファンが毎回現れる。

 生後17か月の有名なファン、サムエル(Samuel)くんが話す言葉はママ、パパ、フッキの三つしかない。

 フッキの名前を耳にすると、サムエルくんはハルクのポーズをし、得意の低い声でうなってみせる。

 現在31歳で、アトレチコ・ミネイロが初めてリーグ制覇を果たした1971年には生まれていなかったサムエルくんの父ダニエル(Daniel)さんは、今回初めてクラブの優勝を目にすることになった。

 ファンの入場が再び認められるとダニエルさんは息子と試合を見に行くようになり、サムエルくんは熱狂的なフッキファンとして地元ですぐさま有名になった。

 ハルクの人形を握りしめてスーパーヒーローのマスクを着用し、緑色にペイントしたサムエルくんはスタジアムで4試合を観戦し、チームはその全てで勝利した。

 ダニエルさんは「チームにとって彼はお守りのような存在に変わった」と冗談を飛ばしている。(c)AFP