■町を去る若者

 1991年に旧ソ連が崩壊すると、バイコヌールはカザフスタン領となった。将来に不安を覚えた住民は、一斉に家を捨てて町を去った。

 町は現在、ロシアが2050年までの契約でカザフスタンから租借している。市内ではロシア語とカザフ語の両方が使われ、両国の通貨が流通する。

「私たちが目指したのは、町を崩壊させることなく将来の発展のため維持することだった。なんとかできたと思う」とムタリエフさんは言う。

 町にはそこかしこに宇宙が息づいている。通りは旧ソ連の宇宙飛行士の名前を冠し、建物は宇宙をテーマにしたアートで飾られ、市内各所に国民的英雄ガガーリンやロケットや技術者の記念碑が立っている。

 人口約7万6000人のバイコヌールには、旧ソ連時代の建築や都市計画の遺物が良好な状態で保存されている。まるで時が止まったかのように。

 若い世代は、自分たちの将来を別の場所に見ている。ゲオルギー・イリン(Georgy Ilin)さん(21)は、「大勢が去っていく。親は給料がいいから残るけれど、子どもはロシアなどへ行くのが普通だ」と語った。イリンさんも大学進学のため町を出る予定だ。高校を卒業したものの「ここには勉強する場所がない」からだ。

 ムタリエフさんも、若者たちにとってバイコヌールには「何の将来性もない」ことを認める。しかし、8日の前澤氏らが乗ったロケットの打ち上げでロシアが急成長中の宇宙観光業に再参入したことで、今「休眠中」の町が活性化されると期待を寄せている。(c)AFP/Nikolay KORZHOV