■ゾウが襲うのは腹をすかせているから

 世界自然保護基金(WWF)によると、インドには野生のゾウが約2万5000頭生息しており、アジア全体の生息数の60%前後を占めている。

 キルマランさんは、「ゾウが人間や家を襲う理由はただ一つ。生息地が失われてきたためです」と指摘する。

「ゾウが生息していた森林はどこも、今では町や村になっています。ゾウは腹をすかせているから襲ってくるのです」

 インド政府の統計によると、2019年までの5年間でゾウの襲撃による死者は2300人以上。一方、同時期に死んだゾウは500頭を超えている。このうちの333頭は感電死で、約100頭は密猟や毒殺によるものだった。

 インド自然保護財団(Nature Conservation Foundation)のアナンダ・クマール(Ananda Kumar)氏は、ゾウが人間を踏み殺したいずれのケースでも、ゾウを追い払おうと暴力的になった人間との接触が原因となっていた可能性があると説明する。

 繰り返し銃撃を受け続けた個体では、死んだ後に100発近い銃弾が獣医師によって取り出された例もあった。クマール氏はその様子を見ていたと話す。

 人間とゾウの衝突をなくすには、ゾウの生息地を保護・拡大するとともに、点在している森をつなげて、ゾウが歩き回れる広大なスペースを確保することが肝要だと専門家は指摘する。

 開発計画を立てる際は「ゾウをはじめとする動物たち、そして、その森林に依存している人々」への影響を考慮する必要があるとクマール氏は語った。

 映像は9月に取材したもの。一部提供。(c)AFP/Laurence THOMANN