【12月18日 AFP】タイののどかなビーチリゾート、ピピ(Phi Phi)諸島では、新型コロナウイルスの流行で国内外の旅行者が激減する中、青い海の生態系がゆっくりと回復を見せている。

 ピピ諸島は、米俳優レオナルド・ディカプリオ(Leonardo DiCaprio)さん主演の映画『ザ・ビーチ(The Beach)』の舞台となったことで世界的に有名となった。長年にわたり大勢の観光客が訪れ、生態系が壊滅寸前となっていた。

 海洋生物学者クンラウィット・リムチュラーラット(Kullawit Limchularat)氏は11月末、マヤ湾(Maya Bay)から数キロ沖の小島近くで、これまで育ててきたシロボシテンジクザメの子どもを慎重にかごから出し、放流した。

 何年も人数制限がされないまま多数の観光客が押し寄せたため、サンゴ礁は破壊された。政府は2018年、生態系保護のためマヤ湾を閉鎖した。

 クンラウィット氏は、プーケット海洋生物センター(Phuket Marine Biological Center)と共同で、破壊された生態系の再生を試みている。「(サメが)成体になったら、ここで繁殖してもらうのが目的だ」とクンラウィット氏は話した。

 新型ウイルスの流行以前、白い砂浜やサンゴ礁で知られるピピ国立海洋公園(Phi Phi National Marine Park)には、年間200万人以上の観光客が訪れていた。

 マヤ湾の横幅250メートルの狭いビーチには、閉鎖前には多い時には1日6000人ほどが押し寄せた。観光客を乗せたモーターボートが何隻もやってきて、海を汚染。一帯の繊細な生態系は甚大な被害を受けた。

 バンコクのカセサート大学(Kasetsart University)のトン・タムロンナーワーサワット(Thon Thamrongnawasawat)氏によると、一帯のサンゴ群集はここ10年あまりで面積が60%以上縮小した

 政府が新型ウイルスの流行で厳格な移動制限を導入したため観光客は実質ゼロとなり、ピピ諸島の生態系はいやおうなく回復を見せた。

 カマストガリザメ、アオウミガメ、タイマイが多数戻って来た他、国際自然保護連合(IUCN)のレッドリスト(Red List)で絶滅危惧種に指定されている世界最大の魚、ジンベエザメも沖合で複数目撃されるようになった。

「観光客がいないおかげで、マヤ湾に移植されたサンゴの40%以上が今も生き残っているという満足いく結果が出ている」と、トン氏は語った。だが、サンゴ礁が元の状態になるには少なくともあと20年はかかるという。

 政府は、これまでの大勢の観光客をターゲットにしたマスツーリズムからの脱却を目指すとしている。ピパット・ラッチャキップラカーン(Phiphat Ratchakitprakarn)観光相は「人数ではなく富裕層」に焦点を当てると述べた。

 ピピ国立海洋公園の責任者、プラーモート・ゲーウナーム(Pramote Kaewnam)氏は過去の過ちは繰り返さないと語った。

 マヤ湾では浜辺付近での船の停泊は禁止され、観光客は湾から離れた桟橋で下ろされる。ツアーは最長1時間、1団体につき最大300人に制限される。

 プラーモート氏は「マヤ湾は以前は毎日6万ドル(約680万円)の収入をもたらしたが、比べ物にならないほどの天然資源を失った」と語った。

 観光客の上限は、ピピ諸島の他の人気観光地でも設定予定。サンゴ礁の上でいかりを下ろしたり、魚に餌をやったりすると150ドル(約1万7000円)の罰金が科される可能性がある。(c)AFP/Sophie Deviller and Thanaporn Promyamyai