【12月2日 AFP】ホッキョクグマがトナカイを水中へ追い落とし、引きずり上げて、その肉をむさぼる──衝撃的なシーンが初めて映像として捉えられた。地球温暖化で海氷が解け、北極圏の王者の食習慣も変化しているのだろうか。

 劇的な光景が繰り広げられたのは2020年8月21日、北極圏のノルウェー領スバルバル(Svalbard)諸島。夏場は海氷が後退し、ホッキョクグマの主な捕食対象であるアザラシを連れ去ってしまう。

 そうした中、現場に近いポーランドの観測所チームが、トナカイを仕留めるホッキョクグマを世界で初めてカメラに収めた。映像には、若い雌のクマが雄のトナカイを冷たい海へと追い込み、捕まえて溺れさせた後、岸辺に引き揚げて食べる様子が捉えられていた。

「まるでドキュメンタリーを見ているような、驚くべき場面でした」と、ポーランド・グダニスク大学(University of Gdansk)の生物学者イザベラ・クラシェビッチ(Izabela Kulaszewicz)氏は語った。

■「深読みすべきではない」との意見

 あまりにもまれな光景を目にした同氏は、他の研究者2人と論文を共同執筆し、学術誌「ポーラー・バイオロジー(Polar Biology、極地生物学)」に投稿した。今回の出来事は、アザラシを捕食する機会が限られ、ホッキョクグマが以前にも増して陸生動物を狙っていることを示す観察例だと論じている。

 北極点から1000キロ余りに位置するスバルバルでは、ホッキョクグマの出没について警告する看板を見かける。一帯には約300頭のクマと2万頭前後のトナカイが生息している。

 論文の著者らによると、ホッキョクグマがトナカイを襲う頻度は、この数十年で増えているとみられ、その背景には二つの要因があると考えられるという。

 一つは、海氷が後退したため、クマが以前より長期間にわたって陸に取り残されていること。もう一つは、1925年に禁猟になったトナカイの個体数がスバルバルで着実に増加していること。つまり、トナカイを捕食することは必然であると同時に好条件でもあるというのだ。

 しかし、あまり深読みすべきではないとする専門家もいる。

 カナダ・アルバータ大学(University of Alberta)のアンドリュー・デロシェール(Andrew Derocher)教授は、「1950年代や60年代にホッキョクグマがトナカイを殺していたら、それを目撃することはとても珍しかったに違いありません。当時、(スバルバルには)人もクマもトナカイもほとんどいなかったからです」と指摘する。

「今ではさまざまなメディアがあり、誰もがカメラやソーシャルメディアを利用している。だから『ニュース』はたちまち広がります」