【12月5日 AFP】ツンとすました茶トラの猫は、目の前の一風変わった餌を嫌がる様子もまったく見せず、ひげに付いた最後のかけらまできれいになめ取った。このキャットフードの原料は、カイコのさなぎだ。

 台湾の猫カフェ「猫泰泰(マオタイタイ、Mao Thai Thai)」で暮らす15匹は、養蚕専門家が開発した新しいキャットフードの味見役を務めた。

 研究者によると、かつては絹生産の単なる副産物でしかなかったさなぎを活用した新しい餌には、有害な腸内細菌を取り除く作用がある。そして猫自身の副産物の臭いも減るという。

「食べた猫は元気になり、ふんの臭いは減ります。私が想像した以上です」とカフェの経営者、蘇ローザ(Rosa Su)さんは語る。

 ピンク色のペースト状の餌には、ツナやビーフ、チキンなど、猫になじみのある風味が付けてあるが、主なタンパク質はカイコだ。

 そんなことは、蘇さんの猫たちにとってどうでもいいのだろう。夕食が待ちきれず、しきりに餌をせがんでいる。

 開発チームによると、自分の猫に食べさせてみた他の店主たちからの反応も良いという。

■絹糸以外のカイコの活用

 この餌は、100年の歴史がある苗栗区農業改良場(Miaoli Agricultural Research And Extension Station)で生まれた。トレーの中ではカイコの幼虫が何百匹もうごめき、クワの葉をはんでいる。

 昆虫のさなぎは、もともとタンパク質や脂肪、ミネラルが豊富だ。加えて苗栗の研究チームは、体内の有害な細菌を殺す免疫タンパクの含有量を高める技術を開発した。

 カイコにストレスを与え、身の危険を感じさせることで、繭の中にいる間により多くの免疫タンパク質がつくられる。その繭の中でさなぎになったカイコを取り出し、キャットフードにする。

 台湾の養蚕農家は以前は数百を数えたが、現在も続いているのは2軒だけだ。かつてはほぼ捨てるしかなかったさなぎの画期的な活用法は、最後に残った養蚕農家の新たな収入源になるかもしれない。

 3代目として家業を継いだ徐維均(Hsu Wei-chun)さん(30)は、絹糸のためだけにカイコを育てても、もはや採算が取れないと言う。そのため、カイコの餌であるクワの葉はすでに茶葉として活用し、繭は化粧品の原料にもしている。

 台湾のペット市場は、大きなビジネスチャンスをもたらしている。動物を飼う人が増え、ペット関連市場は現在、10億ドル(約1100億円)超規模と言われている。

 カイコが原料のキャットフードの値段は、1缶68台湾ドル(約280円)。水分が多いウェットタイプのキャットフードの平均的な缶詰よりやや高い。

「多少、値段が高くても(中略)持続可能で環境に優しい缶詰食品(ペットフード)は、台湾ではかなり受け入れられていると思います」と語るのは、国立聯合大学(National United University)の李威霆(Lee Wei-ting)氏だ。「販売開始から、この製品に対する反応はすこぶる良いです」

 1か月前に大量生産が始まったカイコ製のキャットフードには、すでに韓国、日本、タイや米国のペットショップからも関心が集まっている。(c)AFP/Sean CHANG