【12月6日 AFP】マレーシアの輝く太陽の下、疾走する馬にまたがった射手が観客の声援を浴びながら、的を狙って矢を放つ。数千年前から狩りや戦で用いられてきた弓馬術だ。

 銃火器など近代的な戦闘装備の普及に伴って廃れてしまったその技が今、ニッチなスポーツ「ホースバックアーチェリー」として復活を果たし、マレーシアをはじめ世界中でじわじわ人気を広げている。

 中部ヌグリスンビラン(Negeri Sembilan)州ルンバウ(Rembau)郡で11月に開催されたホースバックアーチェリー大会には、28人の射手が出場した。マレー系イスラム教徒の伝統衣装に身を包んだザハルディンさん(59)も、その一人。

 射手としてはベテランのザハルディンさんだが、ホースバックアーチェリーはこれまで挑戦した競技の中で最も難しく、最もやりがいを感じると語る。「心と体と精神の究極の調和が求められる」

 2018年に創設されたこの大会では、射手は200メートルのコースを疾走する馬の背から30秒以内に9個の的を狙い、的中の正確さと速さを競う。新型コロナウイルス流行の影響で、今回は約2年ぶりの開催となった。

 マレーシアのホースバックアーチェリーの競技人口は100人ほどで、人気は徐々に高まっている。関係者の結束力は強く、競技の裾野を広げるため、企業の後援や政府の支援を取り付けようとしている。

 ホースバックアーチェリーは近年、欧州やアジア各地で大会が開かれ、世界的な広がりを見せている。中でも、マレーシアの人口約3200万人の過半数を占めるイスラム教徒にとっては、預言者ムハンマド(Prophet Mohammed)が乗馬と弓術を推奨していたこともあり、特別な魅力を持ったスポーツとなっている。

 大会会場となった乗馬クラブのオーナーは、「ホースバックアーチェリーは『スンナ』(ムハンマドがたしなんだ伝統と慣行)を実践する機会だと受け止められている」と語った。(c)AFP/Patrick Lee