【12月1日 AFP】フランスの農民たちは2世紀前、首都パリの地下に張り巡らされた石灰岩の採石場へ潜り込み、キノコ生産に革命を起こした。しかし今では数えるばかりの人々が、消えつつある伝統を引き継いでいる。

 皮肉なことに、伝統的な方法で栽培されたホワイトボタンマッシュルームや、より香りの高いブラウンマッシュルームの需要は今も変わらず高い。

「需要がないのではありません。作れるだけ作って売っています」。地下キノコ農園主のシューアムーア・バン(Shoua-moua Vang)さんは語った。ここはパリ西郊の再開発地区ラデファンス(La Defense)から車でほど近いキャリエールシュルセーヌ(Carrieres-sur-Seine)。

 バンさんは、パリ首都圏で最大の地下キノコ洞窟「レアルエット(Les Alouettes、ヒバリの意)」を営んでいる。セーヌ川(Seine River)を見下ろす丘の中腹に総面積1.5ヘクタールのトンネル網が広がる。

 顧客にはミシュランガイド(Michelin Guide)の星に輝くシェフたちからスーパーチェーン、地元の市場まで含まれる。バンさんのキノコの卸値は、1キロ当たり3.2ユーロ(約410円)。「高価」だと認めている。

 しかしAFPが取材で訪れたとき、湿った栽培棚いっぱいに生えた数百キロ分のキノコは、そのまま無駄になりそうだった。摘み取る人手が足りないのだと言う。

 その日働いていたのは、雇われている11人のうち5人だけ。他は病欠の電話を入れていたが、全員が仕事に戻るかどうか疑問だとバンさんは言った。「今どきの人は一日中、暗い所で働くのを嫌います。まるで吸血鬼ですからね」。普段ならば2.5~3トンほど収穫できるが、この日は1.5トンが精いっぱいと見積もった。

 フランス人が「シャンピニオン・ド・パリ(パリのキノコ)」と呼ぶ首都周辺のマッシュルームの伝統的生産者は、バンさんを含め5人しか残っていない。

 19世紀末にはおよそ250人の生産者が、「太陽王」ルイ14世(King Louis XIV)がベルサイユ(Versailles)宮殿で栽培して人気が出た「王室」品種に飛びついた。

 当時の生産者は、地下深くでの堆肥栽培なら一年中、マッシュルームが生育することを発見した。温度と湿度の管理がしやすく、暗闇が成長を促す。

 さらに洞窟の土壌中の成分と、石灰岩の粉をまいた堆肥が相まって、木の実のようなミネラル感を風味に与えることが分かった。この環境のおかげで、キノコが水分を過剰に取り込むことも防げた。