【11月28日 AFP】どぎついネオンとギャンブラーがリングアウトし、代わってしゃれたレーザー照明と女性ファイターがリングインした。タイ式キックボクシング「ムエタイ」の聖地は、新型コロナウイルス流行による20か月に及んだ中断を経て、さまざまな改革に乗り出している。

 首都バンコクのルンピニー・スタジアム(Lumpinee Boxing Stadium)。タイ古来の格闘技ムエタイを象徴する場所で、コロナ禍以前の試合日には数千人の熱狂的ファンが埋め尽くし、試合の陰では100万ドル(約1億2000万円)を超える賭け金が動くこともあった。

 だが2020年3月、すべてが停止した。タイ初のコロナ集団感染が起きたルンピニーは、たちまち閉鎖された。

 しかし、スタジアムの所有者であるタイ王国陸軍はタオルを投げ入れず、強制閉鎖をチャンスに変えたとカムバック宣言をしている。

 スタジアムの副支配人、ロンナウット・ルアンサワット(Ronnawut Ruangsawat)少将は「コロナ流行を逆手に取って、大改革した」とAFPに語った。「アリーナを全面改修し、賭博を禁止した。女性選手の出場も許可した」

■賭博禁止で八百長追放

 シティチョーク・ゲーウサガー(Sitthichoke Kaewsanga)選手(21)は13日、赤と銀の最先端のレーザー照明を浴びてリングに上った。

 スタンドは無観客で、多くのものが新しくなっていた。それでも会場に流れるタイ伝統音楽の生演奏とフック、ジャブ、膝蹴りは変わらない。

 ルンピニーが再び観客を迎え入れるのは来年1月。入場者数を大きく減らし、検査や観客同士のソーシャルディスタンシング(対人距離の確保)などで、徹底的なコロナ防止策を取るという。

 再開されるスタジアムからは賭博も姿を消すことになる。ロンナウット少将によると、「選手が金を受け取ってわざと負けるなど、賭博で八百長が多発した」と陸軍が判断したためだ。軍は、国内の他のムエタイ会場でも賭博を禁止する考えだ。

 しかし、ムエタイ関係者は軍の狙いが実を結ぶかどうか疑問視している。主要ムエタイ団体の一つ、世界ムエタイ機構(World Muay Thai Organization)に所属するジェイド・シリソンパン(Jade Sirisompan)さん(29)は「賭けはオンラインで続けることができる。ギャンブルはムエタイのDNAに組み込まれている」と警告する。

「ジムの経営者を含めて、多くのギャンブラーはそれで暮らしを立てている。運のいい日には何千ドル(何十万円)も手にできる」