【11月29日 AFP】ロシアの首都モスクワにあるおしゃれなバーのロフトで、コメディアンのパベル・デディシェフ(Pavel Dedishchev)さん(30)はスポットライトを浴び、マイクに向かって歩いて行く。

「私は新型コロナウイルスの抗体を7種類持っている。全種類同士は知り合いで、私の体の中で家族のように暮らしている」。若者が中心の50人ほどの客を前にジョークを飛ばす。

「抗体はもちろん政府にもらった。ウラジーミル・ウラジーミロビッチが選挙前に7種類の抗体をくれたんだよな? 治安部隊には12種類!」と、ウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領の名を出すと、客は大笑いした。

 デディシェフさんのジョークは、9月の下院選前にプーチン氏が一時金を支給したことを風刺している。治安部隊は特別待遇を受けることが多い点にも触れている。

 40分間におよぶライブでのジョークの対象は、汚職や強大な影響力を持つロシア正教会(Russian Orthodox Church)、国家親衛隊(National Guard)など多岐にわたった。

 モスクワではスタンダップコメディーの人気が高まっている。ライブの動画はユーチューブ(YouTube)で100万回以上再生されることも多い。テレビは厳しく規制されているため、ロシア人は笑いに飢えているからだ。

 野党指導者アレクセイ・ナワリヌイ(Alexei Navalny)氏が拘束され、独立系メディアに対する厳しい取り締まりが始まって1年。自分たちへの圧力も感じるとコメディアンたちは話す。

 モスクワ在住のベラルーシ系アゼルバイジャン人コメディアンは今夏、スラブ民族以外がモスクワでアパートを見つけるのは難しいという冗談を問題視され、強制送還された。

 最近では、ライブ会場に治安要員を見掛けることもあるという。

 デディシェフさんはAFPの取材に、今年初めから治安要員らしき人物が、モスクワのライブ会場に現れるようになったと語った。「彼らがやって来て撮影していることにみんな気付き始めている」