■男性仕様のトリック

 ドレッシャーさんは長年、自分を同業者として扱わない男性のマジシャンたちを相手にしてきた。誰かのガールフレンドだと思われ、時には、ラスベガス(Las Vegas)の「プールサイドでビキニ姿でマジックをやってくれ」と注文されることもあった。

「マジックの(トリックの)ほとんどは、男性による男性のためのもの。だから、スーツや大きなズボンのポケット、大きな手など、(トリックに必要な)いろいろな要素が男性仕様にできているのです」と説明する。

「女性だからではなく、マジシャンとしてこの世界ですごいと思われるためには、たくさんの障害を乗り越えなければいけません」とドレッシャーさんは言う。「常にもどかしいです」

 ここ数年、セクシュアルハラスメント(性的嫌がらせ)の告発運動「#MeToo(私も)」の影響でマジックの世界でも女性の需要が大きく伸びているとドレッシャーさんは言う。「She(彼女)」という語を取り入れた「シーザム(Shezam)」というポッドキャストも自身で始めた。

 しかし、もとからあった障害物は今も立ちはだかっている。改革を拒む、男性優位のマジック団体という強力な存在もその一つだ。

 米紙ロサンゼルス・タイムズ(Los Angeles Times)の調査報道によると、アカデミー・オブ・マジカル・アーツも昨年、性的嫌がらせをめぐる告発を受け、ゼネラルマネジャーが辞任。後継者のハーブ・レビー(Herve Levy)氏がAFPに語ったところによると、「多様性を認め受け入れる」ことを進める方針を導入し、セクハラ行為を防ぐ研修も従業員に行っているという。

 同団体には現在、マジシャンとして36人の女性が登録されている。

 AFPが取材した夜、もう一人メインで出演していた女性はマリ・リン(Mari Lynn)さんだ。夫のジョン・シュライオック(John Shryock)さんと共演している。

「私たちはいわば、イリュージョンを行うチームです」とリンさんは言う。「自分のことはずっと、アシスタントではなく共演者と呼んでいます」

 マジシャンとして活動し始めた頃は、女性が男性の役割を演じようとすることに非常に批判的な観客もいたと振り返る。「でも状況が変わってきているのはとてもうれしいです。風向きは少しずつ変わってきています」