【10月24日 AFPBB News】「そうそうたるブランドに囲まれるという機会を頂いた」──。障害のある作家が制作したアート作品の商品化を手掛けるHERALBONY(ヘラルボニー、岩手県盛岡市)の松田崇弥(Takaya Matsuda)代表取締役社長(30)は、かみしめるように語った。

 東京都中央区の日本橋三越本店。9月半ばから1か月間、エルメス(Hermes)、ブルガリ(Bulgari)、ルイ・ヴィトン(Louis Vuitton)といった高級ブランドが並ぶウインドーディスプレーに、ヘラルボニーの商品も並んだ。

 ヘラルボニーは、知的障害のある作家のデザインや作品を商品化することで、障害へのイメージを変えようと挑戦する岩手発のブランドだ。創業3年だが、業容は急拡大。作品の使用契約を結んだ作家は10代から60代までの約130人に上る。主に重度の知的障害のある人で、海外在住者もいる。2000点以上の作品をデータ化し、スカーフや傘、ネクタイなどに絵柄として採用している。

 これまでに手掛けた商品数は200点以上。他にも工事現場の仮囲いに絵画作品を並べる事業や、データの使用権を提供するライセンス事業も展開している。有名小売店での販売も相次ぎ、今期の売り上げは2億5000万円と前期比で倍増する見通しだ。

 松田さんは、重度の知的障害のある兄がいることが創業につながったと、AFPBB Newsに語った。社名でブランド名でもある「ヘラルボニー」は、兄の翔太(Shota Matsuda)さん(33)の小学生時代の自由帳に登場した、謎の言葉だ。何度も登場するからには兄にとって意味のある言葉だったはずだと話す。

「重度の知的障害のある人たちが、心では面白いと思っているけど言語化できていないものはいっぱいある」

 松田さんは、そんな思いを社会に伝えたいと考え、兄の言葉を借りた。2018年、双子の兄の文登(Fumito Matsuda)さん(30)とともに会社を立ち上げた。

■ありのままで幸せになれる社会に

 日本橋三越本店の1階にはウインドーディスプレーに加え、ヘラルボニーの商品を扱う9月末までの期間限定ショップもお目見えした。日本橋三越本店婦人雑貨マーチャンダイザー、藤井暁子(Akiko Fujii)さんは企画に当たり、「目に飛び込んでくるような色と柄から興味を持って」調べ始めたのが、ヘラルボニーとの出会いだったと話した。知的障害のある作家の作品だということは、後で知ったという。

 松田さんは確かな手応えを感じた。ブランドの背景を知らずに、ふらっと入ってデザインに引かれて購入する「一目ぼれ即買い」をする客が結構いた。「自信になりました」と振り返った。

 反響の大きさを実感しながらも、成功は時代に合ったからこそと、松田さんは謙虚だ。「時代の流れというところがなくなってきた時に真価が問われてくると思うので、身の丈にあったことをこれからもやっていきたい」

 商品は一つ売れるごとに作家に一部が還元される仕組みだ。還元率は、原画で40〜50%、ネクタイやハンカチといった量産品で5%だ。

 松田さんは、障害のある人たちがありのままで幸せになれる社会が実現できれば、と考えている。「(障害のある人の)今ある部分のすごくいいところは社会側が見つけてくれて、社会側が勝手に金銭的文脈をつけていく。そういう構造とか世の中になっていったら」

 会社の販売方針として、ヘラルボニーというブランドにではなく「作家にファンがつく」ことを目指している。オンラインストア上では、商品説明の前に作家名と作品名が掲げられている。

 ヘラルボニーは来年4月、インテリア市場に進出する。いずれは福祉施設の運営にも関わりたいと、松田さんは抱負を語った。(c)AFPBB News/Marie SAKONJU