【10月31日 AFP】アイルランドの貴族、第21代ダンセイニ男爵(Baron of Dunsany)のランダル・プランケット(Randal Plunkett)氏(38)が自身の城から出て来た。フェイクレザーのジャケットを着て、Tシャツの胸には米国のデスメタルバンド「カンニバル・コープス(Cannibal Corpse)」の真っ赤なロゴが躍っている。

 遠くの方で雄ジカが現れたかと思うと、景色に溶け込んで見えなくなった。300ヘクタールの敷地が野生に戻っている。広さは、先祖から受け継いだ所有地の半分近くに当たる。

「ここの環境に対しては、ある種の義務感を持っていました」とプランケット氏は言う。腰を下ろしている朽ちた木にはキノコが生えている。

「私はこの地所の当代の管理人です。所有しているのは城だけではありません。土地もですが、環境もなんです」とAFPに語った。肩まで伸ばした髪の毛がそよ風になびいた。

 プランケット一族は首都ダブリンの北西にあるダンセイニ城を9世紀にわたり治めてきた。プランケット氏は8年前、「過激」と周囲から言われた再野生化プロジェクトを立ち上げた。

 石造りの灰色の城の壁には、落ち着いた顔つきの歴代の肖像画が並んでいるが、21代当主は後継者には見えない。ビーガン(完全菜食主義者)で、家畜の飼育をやめ、芝刈り機を処分し、自然のなすがままに任せた。

 結果は目覚ましいものだった。非常に希少なイタチ科のマツテンが目撃されるようになった。カワウソやアカシカの数が増え始めた。鳥の種類も増え、ノスリやアカトビ、ハヤブサ、ハイタカ、チョウゲンボウ、シギが飛んでいるのが見られるようになった。1世紀ぶりにキツツキも確認された。

 胸壁の外には、芝生の代わりに23種類の植物が生い茂り、昆虫も集まっている。

 プランケット氏は所々で手を貸す。昨年植樹したのは2500本と、決して少なくはないが、大半が自然任せだという。