【10月15日 AFP】北朝鮮の帰還事業は「国家誘拐行為」だったとして、脱北者グループが北朝鮮政府を相手取り起こした訴訟の審理が14日、東京地裁で行われた。訴訟では、金正恩(キム・ジョンウン、Kim Jong-un)朝鮮労働党総書記が被告として形式的ながらも呼び出しを受けた。

 この異例の訴訟は、北朝鮮が1959~84年に「地上の楽園」という宣伝文句の下、日本から9万人以上を自国に移住させた帰還事業をめぐり、北朝鮮政府の責任を問うもの。同事業の対象は主に在日朝鮮人だったが、日本人配偶者も含まれていた。

 原告となった脱北者5人は、1人当たり1億円の損害賠償を請求。日本と北朝鮮の間には国交がないため、金総書記が北朝鮮政府の代表として出頭を求められた。

 原告の代理人弁護士である福田健治(Kenji Fukuda)氏は先月の記者会見で、「北朝鮮政府が判決を受け入れ、賠償を支払うとは考えていない」と説明。しかし、来年3月23日に原告側の訴えを認める判決が出れば、日本政府が北朝鮮政府と交渉する上での力になるとの見解を示していた。

 原告の一人である川崎栄子(Eiko Kawasaki)さんは14日の記者会見で、北朝鮮で42年間にわたり「いつ命を取られるかという恐怖の中で過ごした」後、18年前に「独断で」脱北したと語った。

 北朝鮮に残った家族との連絡が途絶えており、「生死さえ確かめることができない」と説明。新型コロナウイルスの世界的流行が始まってからは、北朝鮮の人々との連絡がさらに困難になっていると訴えた。(c)AFP