【10月13日 AFP】米動画配信大手ネットフリックス(Netflix)で配信され世界で人気を博している韓国ドラマ「イカゲーム(Squid Game)」で使われた「ダルゴナ(カルメ焼き)」を作った夫婦の営む屋台が、連日大繁盛している。

 ドラマは、巨額の借金を抱えた456人が賞金456億ウォン(約43億円)を獲得するため子どもの遊びで競い、脱落者は即座に殺されるというストーリー。暴力シーンは残忍だが、拡大する経済格差がテーマとなっている。

 この中で参加者は、カルメ焼きの型抜きに挑戦する。星や傘などの形をうまく切り取れず、カルメ焼きを途中で割ってしまうと殺される。

 型抜き遊びは、1970年代に首都ソウルで育ったファン・ドンヒョク(Hwang Dong-hyuk)監督の実体験に基づいている。ただ、当時は成功するとカルメ焼きが無料でもう1枚もらえるだけだった。

 カルメ焼きはすぐにやわらかくなってしまうため、湿気が多い時期のドラマ撮影は困難を極めた。そこでファン監督と美術監督は「カルメ焼きのプロ」を雇って、現場で出来たてを用意することにした。

 雇われたのは、イム・チャンジュ(Lim Chang-joo)さんと妻のジョン・ジョンスン(Jung Jung-soon)さんだった。2人は3日間の撮影で300~400枚を作った。

 2人が営むソウルの簡素な屋台は今、市内で最も人気のスポットの一つとなっている。開店するや否や次々と注文が入り、行列ができ、時には6時間待ちになる。価格は1枚2000ウォン(約190円)。あまりの人気にあきらめて手ぶらで帰る人もいる。

 砂糖をバーナーで溶かし、重曹を加え、丸い平たい形にしてから客の選んだ型を押す。イムさんは約90秒で一連の作業を終える。

 型はドラマに出てきた4種類の他にもさまざまだ。最近はネットフリックスの頭文字「N」の型も始めた。

 イムさんはAFPに、ドラマがこれほど人気になるとは思わなかったとし、「大忙しだ」と語った。

 歴史学者によると、カルメ焼きが韓国に初めて登場したのは1960年代だった。戦後の貧しい時代で、アイスクリームやチョコレートといったお菓子はあまり出回っておらず、手が出ないほどの高級品だった。

 イムさんとジョンさんは、1997年のアジア通貨危機前後に20年間営んだ仕立屋をたたみ、3万ウォン(現レートで約2900円)を元手にカルメ焼きを始めた。

 韓国経済は戦後の権威主義体制下で急成長し、数十年で世界12位にまでなったが、カルメ焼きが姿を消すことはなかった。

 イカゲームは、BTS(防弾少年団)やアカデミー賞(Academy Awards)を受賞した映画『パラサイト 半地下の家族(Parasite)』に続き世界を席巻した韓国大衆文化の仲間入りを果たした。(c)AFP/Yelim LEE / Claire LEE