【10月8日 AFP】タイ・ノンタブリ(Nonthaburi)の「チャオプラヤ・アンティークカフェ(Chaopraya Antique Cafe)」は、水辺の景色を楽しむというよりも、水に漬かりながら食事をするレストランだ。テーブルには茶色く濁った水が打ち寄せる。

 台風15号(アジア名:ディアンムー、Dianmu)とモンスーンによる大雨の影響で、33県で洪水が発生し、30万世帯以上が浸水し、9人が死亡した。首都バンコクの川沿いの地域では数日以内に洪水が予想されており、来週には大雨や暴風の恐れもある。

 だが、この危機はチャオプラヤ川沿いにある「チャオプラヤ・アンティークカフェ」に恩恵をもたらしている。

 店は午後から夕方には、ミヤンカム(具を葉で包むスナック)を食べる客でいっぱいになる。行き来する船や米運搬船がキャラメル色の波を立てると、客はくすくす笑いながら椅子に飛び乗る。

 洪水が始まった時、オーナーのティティポン・ジュティマーノン(Titiporn Jutimanon)さんは店を閉めるつもりだった。しかしすぐに、客は気にしていないことに気付いた。

 ティティポンさんはAFPに「口コミでコンセプトが広まった」と語った。一風変わったレストランの映像は瞬く間にソーシャルメディアで拡散した。

 タイでは新型コロナウイルスの流行で店内での飲食がたびたび禁止されているが、先月に制限緩和の一環として解禁されたばかりだ。タイ・レストラン協会(Thai Restaurant Association)は全国で約5万軒の飲食店が廃業したと推定している。そんな中で営業を続けられるのはありがたいとティティポンさんは言う。「もう一度店を閉めなければならなくなったら、絶対に生き残れない」

 ただし、浸水したレストランを営業するのは大変だという。食事を持ったまま水の中を歩かなければならず、一日の終わりには店員が泥をかき集める。

 店は若者や家族連れに人気だ。客のヌンさん(49)は、「このところ景気がかなり悪いので(中略)とてもいいアイデアだと思う。店主は危機をチャンスに変えた」と話した。(c)AFP