【10月10日 AFP】整えたひげに赤いスカーフ、ブロンズ色のチョッキを身につけたカゼム・マブティアン(Kazem Mabhutian)さん(63)は、イラン首都テヘランで最も古く、そして最も小さいティーハウスを営んでいる。日々、絶え間なく訪れる客にお茶を出しながら、神様が後継者を連れてくる日を待っている。

 グランドバザールの路地裏、衣料品店とモスク入り口の間にマブティアンさんの店「ハージ・アリ・ダルビッシュ・ティーハウス(Haj Ali Darvish Tea House)」はある。大通りからは見えない。1.5平方メートルの小さな店舗だが、テヘランで一番有名なお茶の専門店だ。

 マブティアンさんは、熱々のお茶を容器に注ぐ間、100年前から続く店の話を誇らしげに語った。店は1918年に父親が購入したのだという。

 壁には「国の無形文化遺産の一つ」であることを示す、文化遺産・観光省の証明書が掲げられている。

■「優しさのお茶」

 おすすめは「優しさのお茶」だという。これは、ミント、レモン、サフランをブレンドした鮮やかな黄色いお茶だ。

「父は2007年まで、世界最小とも言われているこの店を営んでいました」と話すマブティアンさん。「脚を骨折して仕事に戻れなくなり、2018年に92歳で亡くなるまで自宅で過ごしました」と語る。

 その後、広告代理店の仕事を辞め、マブティアンさんが店を継いだ。

「広告はビジネスでしたが、こちらは愛です。お金のためではなく、自分の気持ちでこの仕事を選んだのです」と話し、後悔はないことを付け加えた。

 メニューに値段は書いてあるが「お客さんの懐事情」によって変わるという。

 独身のまま年を重ねたことから、愛着のある店の将来を心配することはないのかと尋ねてみた。

 マブティアンさんは「心配などありません」ときっぱりと語った。「神様が後継者を見つけてくれる。このような店はなくならないのです」

 映像は9月20日撮影。(c)AFP/Sammy Ketz and Ahmad Parhizi